心不全療養指導士は、心不全患者の生活を支え、病状の進行を防ぐための専門資格です。心不全療法指導士には、心不全に関する専門知識や療養サポートを行うためのスキルが求められます。と同時に、チーム医療や地域連携にも重要な役割を果たすことが期待されています。
この記事では、心不全療養指導士の資格内容や取得のメリット、受験資格から試験の流れ、勉強方法まで、詳しく解説します。
心不全療養指導士とは
心不全療養指導士とは、心不全の予防・重症化防止に向けた療養指導を専門とする医療資格で、2021年に日本循環器学会により創設されました。
心不全の増悪は患者の日常生活に起因することが多く、看護師は服薬や食事管理などについて、患者と家族に正しい適切な指導を行う必要があります。心不全療養指導士は、食事管理や運動指導・薬の服薬指導など、患者の生活全般にわたるサポートを行い、病状悪化や再入院を防ぐべく支援します。
この資格は、看護師や薬剤師、理学療法士など多職種の医療スタッフが取得でき、特にチーム医療が重視される現代の医療において重要な役割を果たします。資格を取得することで、心不全の専門知識が体系的に学べ、患者へのケアの質を向上させることができます。また、在宅医療や地域で活動する他の医療スタッフと連携を深めることで、地域連携がスムーズになります。
心不全療養指導士の受験資格
心不全療養指導士の受験資格は、以下の条件をすべて満たす必要があります。
①以下いずれかの国家資格保有者
● 看護師
● 保健師
● 理学療法士
● 作業療法士
● 薬剤師
● 管理栄養士
● 公認心理師
● 臨床工学技士
● 歯科衛生士
● 社会福祉士
上記以外の医療専門職も、学会専門医の推薦と委員会の承認により受験が可能ですが、医師は対象外です。
②日本循環器学会会員の正会員または準会員で、年会費を納めていること(会員年数は不問。受験年度の4月1日以降に入会でも可)
③心不全療養指導に従事していること
④受験者用のeラーニング講習を受講し、修了証を取得していること
⑤国家資格取得後に担当した症例に基づく報告書5例を、不備なく記載して提出すること
⑥申請書類を正確に記載し、受験料を納めていること
心不全療養指導士の3つのメリット
心不全療養指導士の資格を取得することで、医療現場において心不全患者のサポートに必要な高度な知識と技術が身につき、ケアの質を向上させることができます。
ここからは、この資格がもたらすメリットを解説します。
心不全に関する体系的な知識やスキルが身につく
心不全療養指導士の資格を取得すると、「心不全」の基礎的な知識に加え、急性や慢性、また異なるタイプの心不全の違いについても理解が深まります。
その結果、患者の病態に応じてどのような薬が適しているか、また他の病気の治療薬が心不全に与える影響を考慮し、治療計画に反映できるようになります。
たとえば、心不全以外の既往がある患者で、血圧を下げる必要がある場合、心不全以外の治療薬による影響まで熟慮した治療計画の立案や看護ケアができるようになるでしょう。
チーム医療や地域連携について学ぶことができる
心不全療養指導士としての活動を行うことによって、患者の主治医や看護師、理学療法士、栄養士、ソーシャルワーカーなど、多職種がチームを組んで一人の患者を支える「チーム医療」の重要性を学べます。
この資格を持つと、他の医療専門職と情報を共有しながら、より患者一人ひとりの病状や生活環境に合わせたケアを提供できるスキルが身につきます。
地域の医療機関や介護福祉施設との連携を深め、患者が地域社会で安心して暮らせるよう支援できる点も魅力です。
キャリアアップや転職に役立つ
心不全療養指導士の資格は、医療現場でのスキルや知識を高めるだけでなく、キャリアアップや転職の際にも大いに役立ちます。心不全の専門知識を持つことで、病院やクリニックだけでなく、地域医療や在宅医療の現場でもその能力を活かせます。その結果、医療機関以外にも働く場所の選択肢が広がります。
また、心不全療養指導士は、チーム医療や患者指導のスキルを持つ専門職として評価されるだけでなく、医療チームのリーダーや管理職などを任されることもあり、さらなるキャリアの幅を広げられるでしょう。
心不全療養指導士の資格取得の流れ
心不全療養指導士の資格を取得するには、まず日本循環器学会へ入会し、eラーニング講習の受講、症例報告書の提出を行います。そのうえで認定試験に合格する必要があります。
資格取得の流れは以下のプロセスに沿って進行し、それぞれの段階で、知識や経験が求められます。
各手順については、以下で紹介していきます。
①日本循環器学会へ入会する
心不全療養指導士の資格取得を目指すには、まず日本循環器学会への入会が必要です。入会手続きは、同学会の公式ウェブサイトからオンラインで行えます。
入会にあたっては、正会員または準会員として登録し、年会費を納める必要があります。
②eラーニング講習を受講する
心不全療養指導士の資格を取得するためには、まず同学会の開催するeラーニング講習を受講し、基礎知識を学ぶ必要があります。講習は約7時間のコンテンツで構成されており、途中で視聴を止めても、後日再開することが可能です。
受講を完了すると、修了証が発行され、次のステップである申請手続きに必要な書類として利用できます。
③オンライン申請をおこなう
同学会の公式ウェブサイトよりオンラインで認定試験の申請手続きを行います。その際、基本情報(氏名、住所、所属機関など)を入力し、症例報告書5例を登録します。
登録画面のガイドラインに沿って申請書と症例報告書を入力し、登録完了ボタンをクリックすると申請が完了します。
④書類の発送・受験審査料の支払いをおこなう
オンライン申請に加え、郵送での書類送付も必要です。以下の書類を印刷し、照明写真の貼付や所定の押印を行ったら、郵送先の住所宛に発送します。
● 心不全療養指導士受験申請書
● 症例報告書5例
印刷した書類に記載された郵送先住所宛に、書類を発送します。また、同学会から送付されるメールの指示に従い、受験審査料を期日までに支払います。
⑤書類(症例報告書)の審査を受ける
心不全療養指導士の認定審査の申請をするには、5例の症例報告書を提出しなければなりません。この報告書は、実際に心不全療養指導を行ってきた経験を証明するものです。
5つの症例はそれぞれ異なる患者のもので、2つ以上のテーマを選んで記載することが求められます。この報告書では、以下のような内容が評価されます。
● 心不全の原因疾患:原因疾患が適切に記載されていること
● 心不全進展ステージ:進展ステージが適切に判定されていること
● 現病歴:心不全ステージや基礎疾患に応じた症状や治療経過が記載されていること
● 薬物治療:治療薬について適切に記載されていること
● セルフケアの状況:患者の療養行動や生活上の問題点がわかるように記載されていること
● 療養指導の実態:心不全のステージ、症状、治療内容に応じた療養指導を多職種と連携して実施している様子が記載されていること
● 療養指導の結果:指導による患者の変化が記載されていること
● テーマに即した記載:テーマごとの記載基準に沿った内容であること
報告書には、所属長や循環器科医師の確認印が必要です。認定試験に進めるのは審査を通過した人のみのため、丁寧で質の高い内容が求められます。
⑥認定試験を受験する
認定試験は、毎年12月に実施され、症例報告書の審査を通過した方のみが受験可能です。
試験はマークシート形式で、試験時間は13:00~15:00(最終入場13:45)です。試験会場は47都道府県に設置され、現住所に基づいて決定されます。
⑦認定試験に合格し、資格を取得する
認定試験の結果は翌年3月上旬に発表され、合否は公式ウェブサイト内、試験申請オンラインシステムのマイページで確認できます。合格者には、資格認定証とピンバッジが送付され、心不全療養指導士の資格が与えられます。
⑧資格取得後は5年ごとに更新が必要になる
心不全療養指導士の資格は、5年ごとに更新が必要です。更新には会員継続、学会参加、50単位取得、「症例報告書」や「活動報告書」5件の提出が求められます。ただし、海外留学や病気による長期療養・育児介護休業など特定の事情がある場合は、延長申請を行うことで資格有効期間を延長することが可能です。
心不全療養指導士の試験の難易度
心不全療養指導士の試験の合格率は、年によって変動しています。以下に、過去の試験結果を表形式でまとめました。
年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
2020 | 1,979人 | 1,771人 | 89.49% |
2021 | 1,914人 | 1,649人 | 86.15% |
2022 | 2,039人 | 1,871人 | 91.76% |
2023 | 1,864人 | 1,312人 | 70.39% |
特に2023年度は合格率が70.39%と、前年度よりも低下しています。このことから、試験の難易度は年々変動していることが伺えます。受験を検討している人は、最新の試験情報の確認や対策を十分に行うことが重要です。
心不全療養指導士の勉強方法
心不全療養指導士の勉強には、公式テキスト『心不全療養指導士認定試験ガイドブック』(3,960円)の活用が効果的です。過去問は非公開のため、カリキュラムに沿った内容をテキストでしっかり学び、基礎を固めましょう。
また、認定試験前に必要なeラーニング講習では、心不全に関する重要な知識を分かりやすく学べます。講習内容は試験日まで何度も見返せるため、テキストで不明な点があればeラーニング講習で再確認する方法が有効です。
テキストとeラーニングを組み合わせることで、試験範囲を網羅できるでしょう。
心不全療養指導士の取得にかかる費用
心不全療養指導士の資格取得にかかる主な費用は、以下の通りです。
費用項目 | 金額 |
日本循環器学会入会費 | 2,000円 |
日本循環器学会年会費 | 正会員:15,000円 準会員:8,000円 |
eラーニング受講料 | 5,000円 |
受験料 | 15,000円 |
更新費用(5年ごと) | 10,000円 |
これらを合計すると、正会員の場合は37,000円、準会員の場合は30,000円となります。
まとめ
心不全療養指導士は、心不全患者の療養をサポートし、生活の質を向上させるための専門資格です。
資格取得には、日本循環器学会への入会、eラーニング講習、症例報告書の作成、そして認定試験への合格が必要です。また資格取得後も定期的な更新が求められ、知識の維持と向上が重視されます。
この資格は、心不全に関わる医療現場でのチーム医療だけでなく、在宅医療や地域での連携にも役立つため、患者の生活を支える上で重要な資格だといえるでしょう。
看護師の求人探し・転職のことなら「スマイルナース」
スマイルナースでは、70,000件以上の豊富な求人を取り扱っています。会員登録後は専任コーディネーターのきめ細かなフォローがあり、資格やスキルに応じたキャリアプランの提案も受けられます。
心不全ケアに関わりたい人や、これから心不全療養指導士を目指したい人が自分に合った職場を見つけられるよう、丁寧にサポートします。スマイルナースをご活用ください。