終末期ケアについて、エビデンスに基づいた知識を持つ「終末期ケア専門士」。医療・介護従事者が、患者とその家族へのケアの質を高めるために創設された資格です。高齢化が進む現代社会において、終末期ケアへの注目は高まっており、この資格に興味を持つ看護師も多いことでしょう。
この記事では、終末期ケア専門士の概要や試験内容、看護師が資格を取得するメリットについて解説します。資格取得を考えている人は、参考にしてみてください。
終末期ケア専門士とは?
終末期ケア専門士は、一般社団法人日本終末期ケア協会(JTCA)が2020年に設立した民間資格です。この資格制度は、終末期にある患者に対して痛みや不快症状の緩和、心理的・社会的サポート、意思決定支援など、エビデンスに基づいた終末期ケアを行える人材の育成を目的としています。
資格を取得できるのは、医療・介護分野の専門職です。とくに緩和ケア病棟や療養病棟、訪問看護ステーション、高齢者ケア施設など、看取りに関わる機会の多い現場で働く人たちから注目されています。
超高齢社会の日本では、“その人らしい最期”を支えるための専門的な知識・技術を持つスタッフの需要が高まっているのです。
終末期ケア専門士になるには?
終末期ケア専門士の資格制度は、医療・介護に関わる幅広い職種を対象としています。医療・福祉系の資格を持ち、終末期ケアや高齢者ケアの実務経験が通算2年以上あれば受験資格が得られます。
なお受験に必要な実務経験は、必ずしもホスピスや緩和ケア病棟など、終末期ケア専門施設のものでなくても構いません。
“終末期”には、老後の暮らし方や残された時間の過ごし方、亡くなるまでの全過程が含まれます。終末期ケア専門士を取得することで、看取りに直接関わる機会のない人も、高齢者が豊かな人生を送るための支援ができるようになると考えられています。
終末期ケア専門士を受験するために必要な資格
終末期ケア専門士の受験対象となるのは、以下の資格保有者です。
● 歯科医師
● 保健師
● 看護師
● 准看護師
● 薬剤師
● 理学療法士
● 作業療法士
● 言語聴覚士
● 管理栄養士
● 介護支援専門員
● 介護福祉士
● 社会福祉士
● 精神保健福祉士
● 公認心理師
● 臨床心理士
● 臨床検査技師
● 臨床工学技士
● 放射線技師
● 歯科衛生士
● 救急救命士
終末期ケア専門士の試験を受けるためには、正看護師・准看護師ともに2年以上の実務経験が必要です。看取りに直接関わった経験がなくても受験は可能です。
また、実務経験は常勤・非常勤を問わず、勤務中の職場と過去に勤務していた職場、合わせて4カ所までの勤務年数を合算できます。
参照元:終末期ケア専門士|受験資格・概要について|一般社団法人日本終末期ケア協会
看護師が終末期ケア専門士になるためには
終末期ケア専門士になるには、受験資格を満たし、試験に合格する必要があります。ここでは、看護師が終末期ケア専門士を目指すための流れや試験の概要について解説します。
試験の申請から資格取得までの流れ
終末期ケア専門士の受験申請から資格取得までの流れは、以下の表のとおりです。
時期 | スケジュール |
3月下旬~9月下旬 | 受験申請 |
8月 | 試験会場の予約 |
10月 | 試験 |
11月 | 合格発表 |
合格後 | 認定登録 |
申し込み可能な期間は、3月下旬~9月下旬と長いですが、申請者が定員に達した時点で受付終了となります。受験を目指す人は早めに申請しましょう。
終末期ケア専門士の試験概要
終末期ケア専門士の試験内容は、以下のとおりです。
試験日時 | 毎年10月頃 |
試験方式 | CBT方式 |
会場 | 全国CBTのテストセンター |
出題数・形式 | 90問(択一または択多問題) |
試験時間 | 90分 |
CBT方式とは、試験会場に設置されているパソコンを使用して試験を受ける方式のことです。試験会場は全国に360カ所以上あり、自身の住まいや都合に合わせて受験場所を選べます。
終末期ケア専門士の合格率はどれくらい?
終末期ケア専門士試験の年度別合格率は、表のとおりです。
実施回 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率(%) |
第1回(2020年) | 2,310 | 1,516 | 65.6 |
第2回(2021年) | 3,775 | 2,623 | 69.5 |
第3回(2022年) | 4,013 | 2,689 | 67 |
第4回(2023年) | 4,451 | 2,720 | 61.1 |
第5回(2024年) | 5,353 | 3,512 | 65.6 |
合格率は60%~70%の範囲で推移しており、決して高くはありません。試験に合格するためには、十分な準備をして臨む必要があるでしょう。
参照元:終末期ケア専門士合格状況|一般社団法人日本終末期ケア協会
終末期ケア専門士の申し込み方法は?
終末期ケア専門士の資格試験に申し込む際は、同協会の公式ホームページから申し込み手続きを行います。
申し込み内容が受理されると、申請書類が送られてきます。これらの書類に必要事項を記入し、添付書類と合わせて提出します。さらに、実務経験をアプリで入力すれば、申し込みは完了です。
申し込み後、受験資格があると認められた人には、1ヵ月以内に審査結果通知が届き、受験が可能となります。
申し込み時に必要な書類
終末期ケア専門士の試験に申し込むには、以下の書類が必要です。
● 本人確認書類のコピー(運転免許証・パスポート・写真付き住民基本台帳カード・マイナンバーカードのいずれか)
申請書に必要事項を記入し、本人確認書類のコピーとともに提出すれば申し込みは完了です。実務経験の申告は、「受験者専用ページ」アプリから行います。
受験に必要な費用
終末期ケア専門士の資格取得にかかる費用は、以下のとおりです。
● 公式テキスト代:6,050円(税込)
● 合格した場合の登録料:12,100円(税込)
試験を初めて受ける際には、公式テキストを購入する必要があります。また合格後は登録料がかかるため、費用総額は30,250円(税込)となります。
資格の更新について
終末期ケア専門士の資格を保持するためには、5年ごとの更新が必要です。更新には以下の2種類の方法があります。
● 同協会の専用アプリ「ココリンク」で60単位取得する
更新用のeラーニングを受講する場合は受講料35,000円(消費税・送料別)、別途更新手数料5,500円がかかります。
ココリンクは月額会費550円で、さまざまな分野の講義動画を見たり、イベントに参加したりすることで単位を取得できるサービスです。ココリンクに登録していても、5年以内に60単位を取得できなければ、eラーニングの受講が必要となります。
終末期ケア専門士試験の出題内容は?
終末期ケア専門士の試験の設問は、主に日本終末期ケア協会が認定する公式テキストの内容、時事問題、協会のホームページに掲載されている「JTCAゼミ」のコンテンツから出題されます。
公式テキストのカリキュラムは、以下の内容で構成されています。
● 日常生活を支えるケア
● 身体症状とケア
● 意思決定支援
● 家族ケア
● スピリチュアルケア
● グリーフケア
● 看取り期のケア
● 終末期を取り巻く社会資源
● 疾患別終末期ケア
終末期ケア専門士試験の過去問題は公開されていません。公式テキストやホームページを中心に学習を進めていくことになります。
参照元:終末期ケア専門士公式テキスト | 一般社団法人日本終末期ケア協会
終末期ケア専門士試験のために効率良く勉強する方法
終末期ケア専門士の試験対策は、協会認定の「終末期ケア専門士公式テキスト」を活用した自己学習がベースとなります。試験問題の大部分はこの公式テキストから出題されるため、テキストの内容を確実に理解することが何よりも重要です。
さらに効果的に学習したい場合には、協会が提供しているWEB講習会の受講も検討しましょう。WEB講習会の受講には19,800円(送料・手数料・税別)の費用がかかります。同僚や上司など、すでに資格を持っている人が身近にいれば、アドバイスを求めるのも効果的です。
予想問題集も市販されているため、より実践的に学びたい方は活用するとよいでしょう。
看護師が終末期ケア専門士の資格を取得するメリット
終末期ケア専門士の資格を取得することで、終末期に関する専門的な知識が深まります。ここからは、看護師が資格取得を通じて得られるメリットについて紹介します。
専門的な知識が身につく
看護師が終末期ケア専門士の資格を得れば、終末期ケアについて、エビデンスに基づいた専門的な知識を身につけられます。
終末期ケアには明確な正解がありません。患者の疾患・身体症状、患者家族の状況や関係性、希望する看取りの方法など、さまざまな要素により最適なアプローチ方法は変わってきます。
終末期ケアに関する豊富な知識を身につけることで、自身の看護のバリエーションが増え、より質の高いケアを実現できるようになるでしょう。
活躍の場が広がる
終末期ケア専門士の資格を取得することは、看護師としてのキャリアアップにもつながります。
社会の高齢化により、終末期ケアに関する専門的な知識やスキルを持つ人材の需要は高まっています。資格を持つことで、自身の専門性をアピールできる機会が増えるでしょう。とくに緩和ケア病棟や療養病棟、ホスピスなどで働きたい人は、部署移動や転職に有利になります。
また、終末期ケア専門士を取得後は、上位資格である「終末期ケア上級専門士」へのステップアップも可能です。
終末期ケア上級専門士は、終末期ケアに関して、チーム管理や教育など、マネジメントにおいても力を発揮できる資格です。職場で研修や勉強会を開催したり、協会の運営サポーターを務めたりと、さらなる活躍の場が広がります。
参照元:終末期ケア上級専門士とは|一般社団法人日本終末期ケア協会
まとめ
この記事では、終末期ケア専門士の概要や試験の内容、看護師が資格を取得するメリットについて解説しました。
終末期ケア専門士は、幅広い職場で働く医療・介護従事者が取得できる専門資格です。高齢化が進む日本社会において、終末期ケアのスペシャリストとしての知識や技術を持つ看護師の需要は今後ますます高まると予想されます。
「自身が関わる人の人生の最期がよりよい時間となるよう、サポートしたい」と考えている人は、ぜひ検討してみてください。
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