看護師の資格には“看護師免許”と“准看護師免許”の二種類があります。資格によってできる仕事の範囲が異なるため、年収に差が出ることも多々。この記事では准看護師の給与事情 について解説していきます。
キャリアアップの方法や給年収アップの目指し方についても紹介します。現在の待遇に不満を抱えながら働いている人も、参考にしてみてください。
そもそも准看護師とは?
准看護師について、「保健師助産師看護師法(保助看法)」の第六条では、次のように定義されています。
「医師、歯科医師又は看護師の指示を受けて」とあるように、准看護師は患者の療養上の世話や診療補助を行うにあたって、医師や看護師の指示をあおぐ必要があります。保助看法でいう“看護師”とは 看護師免許を持つ正看護師のことを指します。つまり、准看護師は医師や正看護師の指示がなければ処置を行うことができないのです。
出典・参照元:
e-GOV 法令検索:保健師助産師看護師法
看護師として働くための資格には、准看護師資格と看護師資格の2種類あります。准看護師と看護師には、どのような違いがあるのか気になっている人もいるのではないでしょうか。 そこで、准看護師の資格制度や看護師との違いについて解説します。准看護[…]
《項目別》准看護師の平均年収はいくら?
国税庁が実施した「令和5年分 民間給与実態統計調査」によると、准看護師の平均年収は約407万円です。給与はさまざまな要素をもとに決定されるもの。ここでは、年収に大きくかかわる要素を項目ごとに解説します。
1:年齢別
一般的に、給与は年齢を重ねるごとに上がっていくものです。とくに同じ職場で新卒から働き続けている人はそれを実感しやすいでしょう。准看護師も他職種と同様に、20代で年収300万円前後、50代後半になると年収430万円程度と、年齢が上がるにつれて収入も上がっていきます。
とはいえ、年齢とともに給与が上がり続けるわけではありません。看護職も他職種も、多くの人が60~65歳で定年を迎えます。定年を迎えた後は多くの人が嘱託職員やパートでの勤務に切り替えて働くことになるため、准看護師の平均給与も60代前半で年収400万円、60代後半で年収330万円とゆるやかに減少していきます。
出典元:厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査 結果の概況」
2:経験年数別
「准看護師としての実務経験がどのくらいあるか」もまた、年収を左右する大きな要素です。たとえば同じ年に准看護師免許を取得した人であっても、継続して現場で活躍している人と、子育てなどにより現場を離れた期間がある人とでは、実際に働いた期間に差がでます。
現場で長く活躍している人ほど、多くの事例を経験しているもの。そこで、准看護師としての実務経験や臨床経験の年数を評価対象とし、給与に加算する職場も多くあります。経験年数が長ければ長いほど、その分を考慮してもらえるのです。
経験年数別の年収は、おおむね以下の通りです。
年数 | 平均年収 |
0年(初年度) | 266万円 |
1~4年 | 338万円 |
5~9年 | 362万円 |
10~14年 | 380万円 |
15年以上 | 396万円 |
出典元:厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査 結果の概況」
3:規模別
大きな病院や介護福祉施設では、規模に比例して多くの人が働いています。規模が大きければ高給与が見込める、と言い切れるものではありませんが、職場の規模は年収に影響する要素のひとつです。とくに病院は50床程度の小規模な地域密着病院から、ドクターヘリの受け入れも担う大規模な三次救急病院までさまざま。
そのため病院の規模によって給与に差が出やすい傾向にあります。ここでは病院の従業員数ごとに、平均年収を紹介します。
規模 | 平均年収 |
1000名以上 | 433万円 |
100~999名 | 413万円 |
10~99名 | 386万円 |
多くの人が働いているということは、それだけの人に給与を支払う 能力が経営元にあるということ。大規模な病院ほど給与が高いのは、安定した労働環境が整っていることが大きな理由です。また同時に、病院スタッフが対応する患者数の多さ、看護師ら医療職に求められる専門性の高さに見合う給与が支払われているためと考えられます。
出典元: 厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査 結果の概況」
4:地域別
地域によって地価水準、物価などは違いがあります。そのため給与にも地域による差があらわれます。とくに時給制で働く場合は、都道府県ごとに設定される最低賃金の金額も影響するため、地域ごとの給与の差を感じやすいことでしょう 。
准看護師の平均年収が高い都道府県の上位5位は、以下の通りです。
都道府県 | 平均年収 |
東京都 | 480万円 |
神奈川県 | 478万円 |
千葉県 | 473万円 |
岐阜県 | 466万円 |
岡山県 | 465万円 |
都心部ほど給与が高くなるイメージがあるかもしれませんが、必ずしもそうとは言い切れません。高度な医療を扱う専門機関がある、働き手不足の解消に積極的に取り組んでいるなどさまざまな理由で、郊外エリア でも給与を高く設定するところもあるからです。なおこれらは平均値で、かつ年度により変動します。参考程度にみておきましょう。
出典元:厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査 結果の概況」
5:施設・職場別
就業先の施設形態や職場 によっても給与は異なります。「この仕事は絶対に高収入が得られる」と言い切れるものではないものの、病院の病棟部門の交代常勤、介護福祉施設の交代常勤の給与には夜勤手当がプラスされるため、一般的に給与は高めです。また訪問看護ステーションについても、多くの職場で高収入が見込めます。
施設形態・職場別の正社員の平均年収は、以下の通りです。
施設形態・職場 | 年収 |
治験関連企業 | 410~500万円 |
病院 | 420~480万円 |
美容クリニック | 400~600万円 |
一般企業 | 300~450万円 |
介護福祉施設 | 370~480万円 |
クリニック(診療所) | 330~450万円 |
訪問看護ステーション | 370~500万円 |
保育施設 | 300~340万円 |
※自社調べ(2025年1月現在)
6:勤務形態別
看護職も他職種も、勤務形態によって収入は大きく変わります。ここでは正社員の准看護師の平均年収について、目安を紹介します。
正社員の勤務形態は「交代常勤(二交代制、または三交代制)」「日勤常勤」「夜勤常勤」が一般的です。
勤務形態 | 平均年収 |
交代常勤(二交代制) | 430~470万円 |
交代常勤(三交代制) | 420~450万円 |
日勤常勤 | 400~450万円 |
夜勤常勤 | 420~480万円 |
※自社調べ(2025年1月現在)
夜勤常勤とは夜勤のみ勤務する正社員のことです。月10回前後(日勤換算:20日)の勤務となることが多く、ほかの勤務形態と同等の日数分働きます。夜勤による生活リズムの乱れや長時間労働による心身の負担は避けがたいもの。夜勤常勤にはそれらを考慮した給与が支払われます。
また夜勤のみの勤務とはいえ、夜勤常勤も正社員のため、賞与が支給されます。そのため年収ベースでみても交代常勤を上回る金額となります。
様々な視点から見る准看護師の給料
ここからは、給与の詳細について解説していきます。
1:初任給
准看護師の初任給の相場は20~25万円程度です。ここに賞与もプラスすると、入職1年目の年収は280万円~300万円程度。ただし、税金や社会保険料などが控除されるため、手取りでは月収18~20万円前後、年収にして230万円~250万円ほどとなります。
給与は病院の規模や勤務地などにより、差が大きくあらわれるものです。入職前に初任給の金額や内訳を知りたい場合は、地域のハローワークへ赴くか、看護師向けの転職サイトなどを参考にしてみるとよいでしょう。
2:月収
准看護師全体の平均月収は、26万6,900円です。月収は基本給に固定手当や時間外手当といった諸手当をプラスしたものです。准看護師の平均月収26万6,900円には、固定手当や時間外手当として計1万9,900円が含まれています。
3:手取り
“手取り”とは会社から支給される賃金の総額(額面給与)から税金や社会保険料を引いた金額のことで、働き手が実際に受け取れる金額を指します。一般的に手取り金額は総支給額の7~8割。給与が20万円だとすると、手取りは16~17万円ほどとなります。
とくに病院で働く准看護師は、親睦会費や組合費などが引かれるケースも往々にしてあります。そのため30万円の月給が支払われていても、自身の口座に実際に振り込まれる金額は20万円くらいということも有り得ます。求人情報に掲載されている給与は税金や社会保険料、組合費などを含む金額のため、ライフプランの参考にする際には注意が必要です。
4:賞与・ボーナス
賞与・ボーナスには、働く病院や介護福祉施設の規模が影響しやすいものです。厚生労働省が令和5年に行った調査では、看護師の平均賞与は62万9,500円。従業員数10~99名の規模で57万7,200円、1000名を超える規模の職場では68万8,600円でした。
5:パート・アルバイトや派遣の時給
厚生労働省の「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、准看護師の平均時給は1,543円です。医療機関の従業員数ごとの規模別では、10〜99名で時給1,608円、100〜999名で時給1,482円、1,000名以上で時給1,600円。賞与・ボーナスとは異なり、時給額は病院や介護福祉施設の規模に比例して高くなるとは限りません。
6:生涯賃金
“生涯賃金”とは「人が働いて一生のうちに得られる総額」のことで、生涯年収ともいいます。准看護師の生涯賃金は、推定約1億9,300万円。一般企業で働く日本人の生涯賃金は推定約2億1,000万円のため、1700万円ほど低いことがわかります。
その理由には、准看護師の資格が大学に通わずに取得できること 、収入が上がりにくいこと、また小規模なクリニックでパートとして働く人が多いことなどがあげられます。この数字はあくまで平均です。高収入を得ている交代常勤勤務の人から扶養内で働く収入の低い人まで含めて算出されるため、一般職と比べて低い額となると考えられます。
准看護師と看護師の給料の違い
准看護師と正看護師はそれぞれ違う資格で、“担当できる業務”の範囲も異なります。国家資格である正看護師のほうが幅広い業務を担当することができるため、正看護師には准看護師よりも給与額を高く設定する職場が多いのです。それにより、年収や賞与・ボーナスも高くなります。
准看護師のキャリアアップはむずかしいと言われる理由
「キャリアアップはむずかしい」と言われがちな准看護師。ここではその理由を解説します。
1:看護師に比べ、できることが少ない
准看護師が担当できる業務の範囲は、正看護師と比べると狭くなります。なぜなら、准看護師は「処置の際に医師や看護師の指示を受けなくてはいけない」から。たとえば、多くの訪問看護ステーションで導入されている24時間体制の“オンコール”当番も、准看護師は担当できません。
また法律上「ほかの看護師に指示を出すことができない」ことから、管理職に就くことや看護計画の立案もできません。
そのためキャリアアップをするにも、正看護師と比べ限界があるのです。
参照元:厚生労働省「訪問看護」
2:役職に就くまでのハードルが高い
看護業務を行うにあたり、准看護師は医師や看護師の指示を受けなくてはいけません。さらに「准看護師が看護師に指示を出す」こともできません。看護師長や看護主任といったリーダーポジションは、現場で働く看護師たちに指示を出す機会が多くあります。看護師に指示を出すことのできない准看護師は、そうした役職に就くことはできないのです。
3:キャリアアップまでの道のりが長い
准看護師がキャリアアップを目指すには、まずは看護師資格を取得し、正看護師となることをオススメします。正看護師になれば、上位資格である認定看護師や専門看護師のほか、保健師や助産師の資格取得にもチャレンジすることができます。また、正看護師になれば役職に就くことも目指せます。看護師資格を取得することは、准看護師がキャリアアップを実現するためのいちばんの近道といえるでしょう。
准看護師が給与アップを狙う方法
キャリアアップがむずかしいとされる准看護師にも、給与アップを目指す方法はあります。ここではそのうちのいくつかを紹介します。
1:看護師資格を取得する
看護師資格を取得すると、正看護師として働くことができます。看護師資格の取得には、准看護師よりも長い期間、学校に通う必要があります。医療や看護について学ぶ内容も准看護師に比べて多いため、正看護師のほうが担当できる業務範囲が広くなります。
そういった理由で、准看護師よりも正看護師の給与を高く設定する職場が多いのです。基本給の金額が上がれば、賞与・ボーナスも准看護師時代よりも増額されます。
2:待遇・給料の良い職場へ転職する
准看護師を募集している職場のなかで、待遇・給与といった条件が良い求人を探すというのも選択肢のひとつです。正看護師の給与を准看護師より高く設定している職場が多いとはいえ、免許の種類によって給与に差をつけない職場もたくさんあります。そういった職場で重視しているのは、おもに積み重ねてきた経験値です。准看護師としての経験が長い人ほど、収入アップが見込めるかもしれません。
准看護師の将来性
准看護師免許は、准看護師養成所の2年間の課程を修了し、准看護師試験を受験・合格することで取得できます。 受験に際し、看護大学もしくは3年制の看護専門学校で学ぶ必要のある看護師免許と比べると、費用も通学期間も少なく済みます。准看護師養成所には朝から夕方まで授業を行う“全日制”と、平日の午後や夜間に授業を行う“半日制”、ふたつの通学スタイルがあります。こうした学びやすさから、働きながら、育児をしながら、介護をしながらなど、私生活と並行して准看護師免許の取得を目指す人も多くいるのです。
たびたび廃止が噂される准看護師資格ですが、医療業界でこの話題が取り上げられてから20年以上、廃止には至っていません。くわえて昨今では、医療や介護の担い手は慢性的な不足状態が続いています。とくに介護福祉施設では准看護師のニーズが高まりつつあります。今後も超高齢社会の加速は必至で、短期間で戦力になる准看護師の需要もより高まる でしょう。
まとめ
准看護師として働くうえで、正看護師よりも給与水準が低いこと、キャリアアップがむずかしいこと、管理職に就けないことなど、悩みは尽きないことでしょう。看護師資格の取得はそれらを解決する近道ではありますが、「通学に必要な期間や費用を考えると現実的ではない」という人も少なくありません。
さまざまな事情から看護師資格の取得がむずかしいのであれば、より待遇の良い職場を探すことをオススメします。条件面を重視する際には、勤務先を最初から絞り込まず、病院やクリニック、高齢者ケア施設、障がい者支援施設など、間口を広げて探すことで、よりニーズに沿った求人を見つけやすくなるでしょう。
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