看護師にとって患者さんの意識レベルの評価は、異常の早期発見や重症度判断に不可欠なスキルです。意識レベルの評価には、「JCS(Japan Coma Scale)」や「GCS(Glasgow Coma Scale)」といった指標が用いられます。
この記事では、JCS・GCSの基礎知識から評価方法まで、詳しく解説します。
意識レベル評価の2大指標「JCS」「GCS」

意識レベルを表す指標として、医療現場でよく使われるのが「JCS(Japan Coma Scale/ジャパン・コーマ・スケール)」と「GCS(Glasgow Coma Scale/グラスゴー・コーマ・スケール)」です。
どちらも患者さんの状態を把握するために重要な指標ですが、評価の視点や点数のつけ方に違いがあります。
それぞれの使い分けや併用のポイントについてみていきましょう。
1.JCSとは
JCSはJapan Coma Scaleの略称で、日本の救急現場や急性期病棟で広く用いられます。
意識レベルを示す3つの段階I・II・IIIと、それぞれの段階をさらに細分化した1・2・3の合計9段階で評価するもので、数字が大きいほど意識障害の程度が重いことを示します。
主な評価内容は、以下の通りです。
| 0.意識清明 | |
| Ⅰ.覚醒している | |
| 1 | 大体清明だが今ひとつはっきりしない |
| 2 | 見当識障害がある |
| 3 | 自分の名前・生年月日が言えない |
| Ⅱ.刺激すると覚醒する | |
| 10 | 普通の呼びかけで容易に開眼する |
| 20 | 大きな声での呼びかけまたは体を揺さぶることにより開眼する |
| 30 | 痛み刺激を加えつつ、呼びかけを続けるとかろうじて開眼する |
| Ⅲ.刺激しても覚醒しない | |
| 100 | 痛み刺激に対し、払いのけるような動作をする |
| 200 | 痛み刺激で少し手足を動かしたり、顔をしかめたりする |
| 300 | 痛み刺激に全く反応しない |
JCSは刺激に対する反応を重視した指標で、特に「覚醒度」の評価に適しています。簡便で使いやすい特徴をもち、緊急性の高い状況下でも素早く意識状態を把握できるため、看護現場で頻繁に使用されています。
2.GCSとは
GCSはGlasgow Coma Scaleの略称で、国際的に標準化された意識レベルの評価指標です。特に頭部外傷を負った患者さんの意識障害の評価に優れています。
GCSは「開眼(Eye opening, E)」「言語反応(Verbal response, V)」「運動反応(Motor response, M)」の3項目で構成されており、それぞれの点数を合計して評価を行います。
主な評価内容は、以下の通りです。
| 開眼 E:Eye opening | 自発的に開眼 | 4 |
| 呼びかけにより開眼 | 3 | |
| 痛み刺激により開眼 | 2 | |
| なし | 1 | |
| 最良言語反応 V:best Verbal response | 見当識あり | 5 |
| 混乱した会話 | 4 | |
| 不適当な発言 | 3 | |
| 理解できない音声 | 2 | |
| なし | 1 | |
| 最良運動反応 M:best Motor response | 命令に応じて可 | 6 |
| 疼痛部へ | 5 | |
| 逃避反応として | 4 | |
| 異常な屈曲運動 | 3 | |
| 伸展反応(除脳姿勢) | 2 | |
| なし | 1 |
評価の範囲は3点から15点で、点数が低いほど意識障害が重いことを示します。GCSは意識障害の経時的変化に役立ちます。
JCS・GCSを用いた評価の具体例

ここでは実際の臨床場面でのJCS・GCSの評価例について、2つ紹介します。
評価:
・JCS 20
・GCS E2V2M5(15点中9点)
解説:
意識レベルはJCSのⅠ~Ⅲのうち、傾眠状態を示すII、大きな声や揺さぶりで開眼・応答を示す20に相当します。またGCSにおいては、痛み刺激に対し「開眼する(E2)」、「理解不能な音声を発する(V2)」、「疼痛部位を認識し払いのける(M5)」と判断されます。
評価:
・JCS 300
・GCS E1V1M1(15点中3点)
解説:
意識レベルはJCSのⅠ~Ⅲのうち、昏睡状態を示すIII、痛み刺激に全く反応しない300に相当します。またGCSの指標においては、痛み刺激に対し「開眼しない(E1)」、「反応なし(V1)」、「反応なし(M1)」と判断されます。
意識障害の鑑別疾患「AIUEOTIPS」って?

意識障害の原因は多岐にわたり、緊急性の高い疾患によるものも少なくありません。その鑑別を迅速に行うための語呂合わせに、「AIUEOTIPS(アイウエオチップス)」があります。
| 頭文字 | 識別疾患/状態 | 観察・対応のポイント |
| A | Alcohol(アルコール) Acidosis(アシドーシス) | 飲酒歴や薬の使用歴、呼気のにおいなどを確認。また血糖測定や採血を速やかに行います。 |
| I | Insulin(インスリン) | 低血糖・高血糖による意識障害が該当します。糖尿病の既往がある場合、低血糖を疑って血糖値を測定しましょう。 |
| U | Uremia(尿毒症) | 腎機能の低下により、老廃物が蓄積している可能性があります。尿量や透析歴、血液検査の結果などがヒントになります。 |
| E | Encephalopathy(脳症) Endocrinology(内分泌) Electrolytes(電解質) | 肝性脳症、甲状腺の異常、血清ナトリウム(Na)濃度の乱れなどが挙げられます。羽ばたき振戦や体温異常などの所見にも注意が必要です。 |
| O | Oxygen(酸素) Opiate(薬物) | 呼吸状態の悪化、薬物による中枢抑制が原因のこともあります。SpO₂や呼吸数をチェックし、薬物中毒が疑われるときは拮抗薬を準備します。 |
| T | Trauma(外傷) Temperature(体温) Tumor(腫瘍) | 頭部打撲や体温の極端な変化、脳腫瘍の存在などが該当します。瞳孔の状態や麻痺の有無など、神経学的な観察も必要です。 |
| I | Infection(感染症) | 髄膜炎や脳炎、敗血症などの感染症が原因となることもあります。高熱や項部硬直、意識レベルの急激な変化の有無などを観察しましょう。 |
| P | Psychogenic(精神疾患) Pharmacology(薬剤) | 心因性の意識障害や薬の副作用も原因となりえます。既往歴や服薬内容を確認し、重篤な疾患が否定された後に考慮します。 |
| S | Stroke(脳卒中) Seizure(けいれん) Shock(ショック) | 急な発症であれば脳卒中が疑われます。ショック兆候にも注意し、バイタルサインを継続的に観察する必要があります。 |
看護師が意識障害の患者さんをアセスメントする際に重要なのは、この「AIUEOTIPS」を念頭に、バイタルサイン、既往歴、内服薬、発症状況などを素早く確認すること、また原因を特定するための情報を医師に提供することです。
特に、低血糖(I)、外傷(T)、脳卒中やショック(S)は、判断の遅れが命に関わることもあるため、緊急性をもって対応しなければなりません。
意識障害の検査と治療の流れ

意識障害の患者さんが運ばれてきたときに、最優先に行うべき確認項目は、気道(A)・呼吸(B)・循環(C)の3つです。
刺激に対し反応がまったく見られない場合には、心停止の可能性も否定できません。そのため一次救命処置を含めた初期対応が重要になります。
ABCの評価によって、低酸素やショックなどの重篤な状態が疑われたときは、気道確保や酸素投与、循環の安定化といった処置を早急に行います。
バイタルサインに大きな問題がないことを確認した後は、一般的に血糖測定が行われます。意識障害の中でも低血糖は、ブドウ糖の早期投与によって改善が期待できる場合があります。
その後、血液検査で電解質や腎機能、感染の有無などを評価し、必要に応じて頭部CTやMRIによる画像検査へと進んでいきます。原因が明らかにならない場合には、髄液検査や脳波検査など、さらに詳しい検査を検討することもあるでしょう。
まとめ
意識レベルの変化は、重篤な疾患のサインであることが多く、見逃さないよう注意が必要です。看護師がJCSやGCSを活用して、患者さんの状態を的確に記録し、医師に報告することで、迅速な診断や治療が実現します。
意識障害の患者さんをアセスメントする際は、AIUEOTIPSを用いつつ、バイタルチェックや既往歴の確認を行うことが重要です。得られた情報をチームで共有し、適切な対応・治療につなげましょう。
参照元:
J-STAGE「シリーズ:内科医に必要な救急医療『意識障害』」
UMIN「意識障害患者の救急医療」
日本急性期ケア協会「意識レベルの評価」
本八幡内科・循環器クリニック「【意識レベル評価】JCS・GCSとは?意識障害時の対応は?」
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JCSやGCSを用いた意識レベルの評価は、患者の急変対応や重症度の判断など、看護現場で欠かせないスキルのひとつです。こうした観察力や判断力を活かしながら、よりよい環境で働きたいと考える看護師には、転職も選択肢のひとつです。
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