名前が示すように、満月のように顔に脂肪が蓄積するムーンフェイス。内分泌疾患やステロイド剤の長期使用によって起こる病態で、ほかのさまざまな症状にとともに現れることが多くなります。
本記事ではムーンフェイスの特徴や原因、看護のポイントについて解説します。
ムーンフェイスとは

医学用語のムーンフェイスは、「満月様顔貌」のことで、顔に脂肪が過剰に沈着した状態をいいます。ムーンフェイスは体幹に脂肪がつきやすくなる「中心性肥満」をともなうケースが多い傾向にあります。
なお宇宙科学分野では、無重力空間での体液移動による顔のむくみを「ムーンフェイス」と呼びます。
外見の変化
ムーンフェイスでは、脂肪が蓄積することで顔が満月のように丸くなります。また体の中心部にも脂肪がつきやすくなるほか、手足の筋肉が痩せて細くなることで、体全体のバランスが崩れて見えるため、本人がコンプレックスを感じやすくなります。
首や肩まわりがこる
ムーンフェイスで顔が肥大化すると、首や肩こりが現れることがあります。また姿勢が変化することで、慢性的な疲れを引き起こしやすくなります。
ムーンフェイスとステロイドの関係性とは

ムーンフェイスの原因としてよく知られるのが、ステロイドの長期投与による副作用です。ここでは、ムーンフェイスとステロイドの関係についてみていきましょう。
ステロイドとは
強い薬のイメージがあるステロイドですが、もともとは副腎という臓器から作られる副腎皮質ホルモンのひとつです。ステロイドホルモンには、体内で起こっている炎症を抑えたり、体の免疫を抑えたりする作用があり、さまざまな病気の治療薬に使用されています。
ステロイドの主な副作用
ステロイドにはさまざまな副作用があるため、投与時に注意が必要です。ステロイドの主な副作用は次のとおりです。
● 骨密度の減少
● 糖尿病
● 消化性潰瘍
● 血栓症
● 精神症状(不眠症、多幸症、うつ状態など)
● 中心性肥満、ムーンフェイス(満月様顔貌)
● 高脂血症、動脈硬化
● むくみ、高血圧症
● 白内障や緑内障
● 副腎不全
● にきび
上記以外にも、ステロイドの長期投与によって、脱毛や増毛、生理不順、不整脈、筋力低下を引き起こすことがあります。
ステロイド使用によってムーンフェイスになる可能性
ムーンフェイスはステロイド剤の長期投与によって起こりやすい症状のひとつです。
ムーンフェイスは、薬剤成分が全身に巡回する内服や点滴投与によって引き起こされるものです。そのため、軟こうのような局所に作用するステロイド剤によって、ムーンフェイスになることはほとんどありません。
ステロイドがムーンフェイスを引き起こす原因
ステロイドの使用によりムーンフェイスになるのは、脂質代謝に障害が起こるためです。ステロイドが投与されると、体内は副腎から分泌されるステロイドホルモン「コルチゾール」が増えたとの同じ状態になります。
コルチゾールには代謝を促進する働きがあり、肝臓での糖新生を亢進させます。すると、糖の上昇に対してインスリンの分泌量が増えます。インスリンには脂肪を合成する作用があるため、体に脂肪がつきやすくなります。とくに顔やお腹にはインスリン感受性が強い脂肪細胞が多く、ムーンフェイスの原因となるのです。
またステロイド剤には食欲亢進作用があり、食事量が増え、顔に脂肪がつきやすくなることも原因と考えられるでしょう。
ステロイドを使用する際の注意点
ステロイドホルモンは体内でも分泌されているものの、一定量以上のステロイド薬を長い期間内服すると、副腎皮質からステロイドホルモンが分泌されなくなります。
そのため、ムーンフェイスのようなステロイド薬の副作用が気になって、急に薬を中止したり、減量したりすると、体内のステロイドが不足する結果になり、離脱症状が起こります。
具体的な離脱症状には、倦怠感、吐き気、頭痛、血圧低下、関節痛、発熱などといった副腎不全の症状があります。
通常、ステロイドを中止するときは、少しずつ量を減らしていく必要があります。ムーンフェイスをはじめステロイドの副作用が気になるときは、自己判断で薬をやめるのではなく、医師に相談することが大切です。
ムーンフェイスの原因となる内分泌異常

ムーンフェイスはステロイド薬以外にも、ホルモンバランスの崩れによる病気で起こることがあります。ムーンフェイスが起こりやすい内分泌異常は以下です。
1.クッシング症候群
クッシング症候群は、コルチゾールが過剰に分泌されることで起こる病気です。コルチゾールの過剰分泌が起きる背景には、副腎皮質や脳の下垂体の腫瘍があります。
症状
クッシング症候群の症状は次のとおりです。
| 症状 | 概要 |
| ムーンフェイス(満月様顔貌) | 顔に脂肪がついて丸くなる |
| 野牛肩 | 肩に脂肪が蓄積する |
| 中心性肥満 | 体幹に脂肪がついて、手足が痩せる |
| 菲薄化(ひはくか) | 皮膚が薄くなる |
| 腹部赤色皮膚線条 | お腹にストレッチマークができる |
| 近位筋の筋力低下 | 体幹近くの筋肉が衰える |
上記以外にも、高血圧、耐糖能異常、月経異常、骨粗しょう症、うつ、感染症や心血管疾患の発症リスクが高くなることがあります。
3.内分泌系の腫瘍
副腎や脳下垂体といったコルチゾールの分泌に関わる臓器に腫瘍ができると、ムーンフェイスの症状がみられることがあります。上記の腫瘍は、クッシング症候群の直接的な原因になるものです。
とくに脳下垂体は各臓器から分泌されるホルモンの分泌の促進や抑制を担っています。脳下垂体腫瘍により、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が過剰に増えると、副腎から大量のコルチゾールが分泌され、ムーンフェイスを引き起こす原因になります。
気になる場合は専門医の診察を受けよう
ムーンフェイスと顔のむくみについて、判別がむずかしいこともあるでしょう。単なる顔のむくみではなく、体内のホルモンバランスの崩れによる病気が原因でムーンフェイスがみられることがあります。
「手足は細めなのに顔や肩に肉がついてきた」といった場合には、内分泌の病気が隠れているかもしれません。気になる症状があるときは、専門医の診察を受けるよう促しましょう。
ムーンフェイスと合わせてみられやすい症状やトラブル

ステロイド剤の長期使用や内分泌の病気によりムーンフェイスになると、顔の丸み以外の症状やトラブルが起こることがあります。具体的にみていきましょう。
体型のバランスが悪くなる
ムーンフェイスがみられる人は、体の全体バランスが崩れやすくなります。顔や肩といった体の中心部に脂肪がつきやすくなる一方で、手足が細くなる傾向があります。これはコルチゾールにはタンパク質を分解する作用があり、手足の筋肉が細くなるためです。
そのためムーンフェイスがみられる人は、顔や体の中心部はボリュームがあるのに、四肢が細いというアンバランスな体型になりやすいのです。
肌のトラブルが起こる
ムーンフェイスのようにコルチゾールが過剰分泌される状態では、肌トラブルが起こりやすくなります。コルチゾールには、血管を拡張したり、コラーゲンの生成を抑制したりする作用があるためで、皮膚が薄くなり、広がった血管が透けてみやすくなります。
肌トラブルの例
ムーンフェイスにともないみられる肌トラブルは、肌の赤みと肌荒れです。また、ステロイド剤を使用している場合、肌の抵抗力が低下するため、ニキビも現れやすくなります。
精神面への悪影響を及ぼす
ムーンフェイスによる体型へのコンプレックス、肌トラブルが重なると、精神的な落ち込みを感じやすくなります。とくに女性にとって、顔の見た目や肌状態の悪化は大きなストレスになるものです。
またステロイド剤使用によってムーンフェイスがみられている場合、薬の副作用により、自己肯定感が低下し、うつ症状や不安感を抱きやすくなります。
食欲も増進しやすいため、食事の栄養バランスが崩れることで、ムーンフェイスや肌荒れが悪化しやすくなる悪循環に陥ることもあります。
ムーンフェイスを改善する方法

ムーンフェイスはステロイド薬の減量や原因疾患の治療により、コルチゾールを減らすことで改善できるものです。一方で、治療過程にある人のなかには、できるだけ症状を改善したいと考える人もいます。ムーンフェイスを悪化させないポイントは次のとおりです。
食事の栄養バランスを見直す
ムーンフェイスは顔に脂肪が蓄積している状態であるため、体重を増やさないように努めることで悪化を防げます。炭水化物・タンパク質・脂質・ビタミン・ミネラルなど食事の栄養バランスを整えて、過剰に体重を増やさないことが大切です。
とくにステロイド治療中は食欲が増進しやすく、1日の食事摂取量が増えやすくなります。間食や過食は体重が増えて、ムーンフェイスが悪化しやすくなるため、控える必要があります。どうしても何か食べたいときは、低カロリー食品を摂取するよう促します。
睡眠の質を上げる
ムーンフェイスを悪化させないためには、質の高い睡眠を取ることも重要です。睡眠不足は体がストレスを感じ、コルチゾールが分泌されやすくなります。また睡眠が十分でないと、食欲を抑えるホルモン「レプチン」の分泌が減少し、食欲を増加させるホルモン「グレリン」の分泌を増やします。
睡眠は少なくとも7時間は確保するようにし、寝室の環境や寝具にもこだわって質の高い睡眠を目指しましょう。
適度な運動を行う
日常的に運動を取り入れることは、ムーンフェイスの改善に役立ちます。運動習慣のある人は、適正体重を維持しやすいだけでなく、コルチゾールの分泌バランスを整えることができます。
とくにおすすめなのは、サイクリングやウォーキングなど毎日の生活に取り入れやすい有酸素運動です。忙しくて運動時間が取れない人には、通勤や買い物で歩く機会を増やす、ふだんからエレベーターではなく階段を使うなど、日頃からこまめに体を動かすことを意識させましょう。
ストレスをためないようにする
ムーンフェイスの悪化を防ぐには、ストレス対策も必要です。コルチゾールは“ストレスホルモン”と呼ばれるように、心身にストレスを感じたときに分泌量が増えます。
ストレスの原因を取り除いたり、気分転換活動を取り入れたりするなどして、ふだんからストレス対策を行うようにしましょう。
病院の受診を検討するタイミング
ムーンフェイスがみられたときは、早めに医療機関を受診し、原因を特定することが大切です。顔のむくみとムーンフェイスの見分けるのがむずかしいケースも多いでしょう。
顔のむくみは朝起きたとき、塩分の多い食事や飲酒した翌日など、一時的にみられやすいものです。顔のむくみが長く続く場合は、水分によるむくみではなくムーンフェイスの可能性があるかもしれません。
また、顔の赤みや首や肩回りの肥満もムーンフェイスと合わせてみられるもので、判別に役立ちます。
診察時に行われる代表的な検査

ムーンフェイスで医療機関を受診するときに行われる検査は、次のとおりです。
| 血液検査 | 血液中のコルチゾールの量を調べる |
| 尿検査(24時間蓄尿) | コルチゾールの分泌状態を評価する |
| 画像検査(CT・MRI) | 副腎や脳下垂体に腫瘍がないかを調べる |
| ホルモン負荷試験 | 薬剤を投与し、血液中のコルチゾール濃度の上昇や反応を評価する |
治療方法
ムーンフェイスの治療には、原因疾患の治療を行います。脳下垂体の腫瘍等によりクッシング症候群が起きているのであれば、手術で腫瘍摘出を目指します。手術での根治がむずかしい場合は、放射線治療やコルチゾールの合成を抑える薬の投与といった治療が行われます。
ステロイド剤でムーンフェイスがみられる場合には、対象の病気の治療を行います。病気の症状が収まり、ステロイドの投与量が減量すれば、ムーンフェイスは改善します。ステロイド治療中は、患者さんに体重管理などの生活指導を行うことがあります。
ムーンフェイスになった患者さんを看護する際の注意点

ムーンフェイスの患者さんの看護をするうえで、どのような点に配慮すればよいのでしょうか。看護のポイントについて解説します。
患者さんの精神面に配慮する
ムーンフェイスは命に関わる症状ではありませんが、見た目の変化に対し、患者さんがコンプレックスを抱くなど、心理面に大きな影響を与えます。不安やストレスを和らげるために、患者さんの話に耳を傾け受け止めましょう。
原因疾患が治り、ステロイド投与が量が減れば、ムーンフェイスは治癒することなど、回復プロセスについて説明することも大切です。
患者さんの合併症のリスクを常に意識する
ムーンフェイスがみられている場合、過剰なコルチゾールの分泌により、合併症も起こりやすくなります。具体的な合併症には以下があげられます。
● 骨粗しょう症
● 消化性潰瘍
● 脂質代謝異常
これらの症状についても観察を行い、必要があれば医師に報告するようにしましょう。
家族にも薬の効果と副作用について説明する
ステロイド投与でムーンフェイスがみられる場合、患者さんが自己判断で薬を減らしたり中止したりしてしまうことがあります。治療薬が適切に投与されないと、原因疾患の治療を妨げることになります。
とくに患者さんや家族にステロイドに対する誤解があると、治療がスムーズにいかなくなる原因になりかねません。ステロイド治療で得られる効果や副作用について、家族も含めてしっかり説明を行いましょう。
患者さんの骨折防止のための安全管理を行う
ムーンフェイスがみられる患者さんには、転倒予防といった安全対策も行いましょう。クッシング症候群やステロイド投与によりコルチゾールが過剰な状態では、骨粗しょう症を合併しやすくなります。とくにクッシング症候群では四肢の筋肉も低下するため、体のバランスを崩しやすくなるおそれがあります。
ベッド回りの環境整備を十分に行う、歩行時は付き添いをするなどして、患者さんの転倒に十分に気を付けましょう。
まとめ
ムーンフェイスは、満月のように顔に脂肪が沈着する症状で、原因にはステロイド剤の長期投与や内分泌疾患があります。ムーンフェイスがみられる患者さんは、体内のコルチゾールが過剰な状態であり、さまざまな合併症を引き起こすリスクがあります。
見た目のコンプレックスを抱く患者さんも多いことから、身体面だけでなく心理面にも配慮した看護ケアを心がけましょう。
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