赤ちゃんの特徴的な動きとして知られる“原始反射”。突然両手を広げたり、足の裏をなでると指が開いたりするこの反射は、生まれたばかりの赤ちゃんに備わった機能です。赤ちゃんに関わる施設で働く看護師にとって、原始反射の知識は日々のケアに欠かせません。
この記事では、代表的な7つの原始反射について、それぞれの特徴や消失時期、反射に関する悩みの対処法を解説します。赤ちゃんの発達を正しく理解し、適切な支援につなげるための知識を深めていきましょう。
赤ちゃんに見られる原始反射とは?
原始反射とは、赤ちゃんが生まれたときから備えている無意識的な動作のことです。赤ちゃんが何らかの刺激を受けると示す反応で、新生児期から乳児期に特有のものといえます。
原始反射は、主に脳幹のはたらきによって起こります。成長とともに大脳が発達すると、原始反射が抑制され、赤ちゃんは自分で身体を動かせるようになります。つまり、原始反射の出現・消失は、中枢神経の発達を確認する指標のひとつなのです。
原始反射の多くは、生後0~3ヶ月の時期に活発に現れ、生後半年頃までに徐々に消失します。
赤ちゃんの主な原始反射の出現期間・チェック方法
ここからは、代表的な7つの原始反射について、その特徴や出現期間、チェック方法を解説します。
なお、原始反射の出現・消失時期には個人差があります。ここで紹介する期間はあくまで目安として捉えましょう。
1:モロー反射
モロー反射は、出生直後から生後4~6ヶ月頃まで出現します。
柔らかい場所に仰向けにして寝かせた赤ちゃんの後頭部に手をあて、少し頭を持ち上げたあと、突然持ち上げていた頭を下ろします。すると、驚いたように両腕を広げ、そのあとに何かにしがみつくような仕草を見せるのです。
モロー反射は、赤ちゃんの神経系が適切に発達していることを示す指標のひとつです。反射が消失すると、首のすわりが安定し、首の運動ができるようになります。
2:バビンスキー反射
バビンスキー反射とは、足の裏を刺激することで見られる反射のことで、「バビンスキー徴候」とも呼ばれています。
赤ちゃんの足の裏の外側を、かかとからつま先まで刺激します。すると、足の親指が外側に曲がり、他の指が扇状に広がる反射動作が見られます。
バビンスキー反射は、成人では神経学的な異常を示す徴候ですが、赤ちゃんにとっては正常な反応です。出生直後から見られ、1~2歳頃には自然に消失します。
参照元:日本小児神経学会:小児神経学的検査チャート作成の手引き
3:吸てつ反射(哺乳反射)
吸てつ反射は、口に入ってきたものを自ら吸おうとする反射です。赤ちゃんの唇の辺りに何かが触れたり、刺激されたりすると、舌を出して吸う動作が見られます。
吸てつ反射はミルクや母乳を飲むために備わった反射であり、探索反射、捕捉反射とまとめて「哺乳反射」と呼ぶこともあります。新生児が生まれてすぐに母乳やミルクを飲めるのは、この反射があるためです。
吸てつ反射は出生直後から見られ、生後5~7ヶ月ほどで自然に消失します。
4:検索反射(探索反射)
検索反射(探索反射)とは、頬や口の周りを触れたものを探すように動かす反射動作のことです。赤ちゃんが生後すぐに母乳を飲めるよう備わった反射能力で、吸てつ反射と連動し、哺乳を助ける役割を果たします。
検索反射の消失時期は生後4~6ヶ月頃です。ただし消失時期には個人差があり、生後6ヶ月を過ぎても反射が見られるケースも多く存在します。検索反射が弱く授乳に影響がある場合は、助産師や小児科医に相談しましょう。
5:歩行反射(自動歩行)
赤ちゃんは、大人に上体を支えられて床などの平面に足の裏をつけると、両足や片足を前後に出す仕草を見せます。この反射は歩くような動作に見えるため、「歩行反射」、または「自動歩行」と呼ばれています。
歩行反射は新生児期に見られ、多くの場合2ヶ月程度で消失します。赤ちゃんが座って姿勢の保持ができるようになるまでの期間のみ、現れることが特徴です。
なお、実際に赤ちゃんが歩き始める時期には、個人差があります。一般的には、生後1年が経過した頃から一人歩きを始めます。
6:緊張性頸反射
緊張性頸反射とは、頭の位置によって手足の伸展や屈曲が変わる反射のことです。“対称性緊張性頸反射”と“非対称性緊張性頸反射”の2種類があります。
チェック方法や反応は以下のとおりです。
非対称性緊張性頸反射 | 対称性緊張性頸反射 | |
チェック方法 | 赤ちゃんを仰向けに寝かせ 頭を右または左に向ける | 赤ちゃんをうつ伏せの状態にして 頭を上げる、または下げる |
反応 | 顔を向けた側の腕と足が伸び 後頭部側の腕と足が曲がる (フェンシングのポーズのような姿勢) | 頭を上げると、腕が伸び脚が屈曲する 頭を下げると、腕が曲がって脚が伸びる |
出現時期の目安 | 出生時~生後3.4ヶ月頃 | 生後6ヶ月頃~11ヶ月頃 |
7:把握反射
把握反射は、手のひらや足の裏に何かが触れると、それを掴もうとする反射です。手の把握反射は「手掌把握反射」、足の把握反射は「足底把握反射」と呼ばれます。新生児期はこの反射により強い握力を示すことがあり、大人が驚くほど強く握ることもあるでしょう。
把握反射は出生直後から見られます。手掌把握反射は自分でものを掴めるようになる生後3~4ヶ月頃、足底把握反射は立ち上がれるようになる生後9~10ヶ月頃に消失するとされています。
《種類別》原始反射に関して不安を感じたときの対処法
赤ちゃんと関わる職場で働いていると、原始反射について保護者から質問を受けたり、気になる反応を観察したりすることがあります。
新生児期から乳児期にかけての原始反射は個人差が大きく、どう対処すべきか不安に感じることもあるでしょう。看護師として適切な判断や保護者へのアドバイスができるよう、各反射の特徴や気になる症状がある場合の対処法を知っておきましょう。
1:モロー反射に関する不安の対処法
午睡中や寝かしつけのタイミングでモロー反射が出現し、赤ちゃんがゆっくり休めないと悩む保護者がいます。予期せぬ反射の出現を減らすには、おくるみを活用する方法があります。適切におくるみを使えば手足の動きを抑えられます。
また環境面では、できるだけ静かな場所に寝かせ、突然の大きな音が聞こえないよう配慮しましょう。抱っこから寝かせる際には、赤ちゃんの頭をゆっくりとベッドに下ろし、体勢の急激な変化を避けることもポイントです。
生後6ヶ月を過ぎても強いモロー反射が続くときは、必要に応じて小児科の受診を勧めましょう。反射の状況を記録に残しておくと、発達の経過を把握するうえで、参考になります。
2:バビンスキー反射に対する不安の対処法
バビンスキー反射に関して「反応がない」「消失時期を過ぎても反射が見られる」という場合、病気ではないかと心配する保護者もいます。
バビンスキー反射は、赤ちゃんの中枢神経系の発達にともない、自然と見られなくなります。赤ちゃんの発達のペースによって個人差がありますが、一般的に1~2歳頃に消失します。
2歳を過ぎてもバビンスキー反射が見られる場合は、随意運動を支配する錐体路に障害が起こっている可能性があります。必要に応じて小児科医への橋渡しをすることも、看護師の役割です。
3:吸てつ反射(哺乳反射)に関する不安の対処法
吸てつ反射は、乳児のケアに関わる看護師にとって重要な観察ポイントです。反射の強弱により授乳がうまくいかないケース、哺乳量が安定しないケースがあるためです。とくに吸てつ反射が弱くなる時期には、今までしっかり飲めていた赤ちゃんの哺乳量にムラが出てくることもあります。
授乳ペースの変化は成長の一部であることを認めつつ、一人ひとりの赤ちゃんの哺乳パターンを把握し、記録しておきましょう。次のような指導や情報提供により、保護者に安心感を与えることも大切です。
● 授乳姿勢を変えてみましょう
● 哺乳量のムラは成長過程のひとつであり、日々の体重増加が適切であれば心配ありません
赤ちゃんの発育が順調であれば大きな心配はないものの、哺乳量が極端に少ない場合や体重増加が悪い場合には、小児科医師に相談するとよいでしょう。
4:検索反射(探索反射に対する不安の対処法
探索反射は、生後まもない赤ちゃんに備わった機能で、意思とは関係なく、刺激に対して起こるものです。赤ちゃんが成長するにつれて脳が発達すると、動作として意識的にできるようになります。これは「反射が消失する」というより、「意識的に探索という動作ができるようになった」と捉えられるでしょう。
探索反射が見られなくなる時期には個人差があります。一般的には0~3ヶ月頃で統合されますが、他の発達面に問題がなければ、1~2ヶ月程度の差は見守ってもよいとされています。反射の変化を記録しておくことで、他の発達指標と合わせた総合的な評価に役立てられるでしょう。
5:歩行反射(自動歩行)に関する不安への対処法
赤ちゃんを抱き上げて足を床につけると、歩くような動きをする歩行反射。保護者からは「もう歩けるの?」「この反射は確認した方がいい?」といった質問を受けることもあるでしょう。
歩行反射はすべての赤ちゃんに見られる自然な反応で、成長に問題がないかどうかを判断する目安のひとつです。しかし、あえて頻繁に確認する必要はありません。この反射を無理に誘発することは、かえって赤ちゃんの体への負担になるという意見もあります。
保育の場では、発達の自然な流れを尊重し、各段階に合った遊びや環境を提供することが大切です。低月齢の赤ちゃんには、仰向けやうつ伏せでの遊び、寝返りを促す働きかけを中心に、発達段階に応じた関わりを心がけましょう。
6:緊張性頸反射に関する不安への対処法
2種類ある緊張性頸反射のうち、ここでは対称性緊張性頸反射についてのポイントを紹介します。
対称性緊張性頸反射は、体の上と下の動きが連動する反射です。赤ちゃんがハイハイをしていて上を向いた際に、姿勢を保持するのに必要なものといわれています。
赤ちゃんは、ハイハイを繰り返しているうちにこの反射を統合し、最終的に立ち上がれるようになります。保育の場面では、ハイハイを十分に経験できる環境づくりや遊びの工夫を提案するとよいでしょう。
7:把握反射に関する不安への対処法
把握反射には、手掌把握反射と足底把握反射とがあり、それぞれ消失時期が異なります。
把握反射が残った場合、たとえば手掌把握反射が適切な時期に消失せず残存すると、手先を使う作業が苦手になったり、鉛筆や箸が握れなくなったりと、生活への支障が考えられます。
把握反射が適切な時期に消失しない場合には、神経系の発達になんらかの障害がある可能性があるため、小児科医への相談を検討しましょう。
まとめ
この記事では、代表的な原始反射の特徴や消失時期、原始反射に関する悩みへの対処法について解説しました。
原始反射は赤ちゃんの神経発達を示す重要なサインです。看護師として赤ちゃんに関わる施設で働く人は、これらの反射を正しく理解し、子どもの発達状況を適切に評価することが求められます。
ただし消失時期には個人差があります。出現時期や消失時期は「おおよその目安」として捉え、一人ひとりの発達ペースを尊重することが大切です。気になる点があれば、小児科医や専門職と連携し、必要に応じて早期の支援につなげましょう。
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