鎮静中の患者さんの状態を正確に評価することは、ICUや急性期病棟で働く看護師にとって重要なスキルです。
RASSは、鎮静薬を使用している患者さんの鎮静状態を客観的に評価するためのスケールです。RASSを用いて患者さんの覚醒状況や興奮度を数値化することにより、適切な鎮静管理が実現します。
この記事では、RASSの評価方法や使用場面、具体的な症例をもとにした評価の考え方について解説します。鎮静管理に携わる看護師は、ポイントを押さえておきましょう
RASS(鎮静スケール)とは

RASS(Richmond Agitation-Sedation Scale)は、鎮静薬を使用している患者の鎮静状態を評価するスケールで、気管挿管や人工呼吸などの侵襲的な治療を受ける患者に対し、鎮静が適切に管理されているかを判定するために用いられます。
鎮静剤を投与する際、鎮静が浅すぎれば患者の苦痛や不穏につながり、深すぎれば人工呼吸器からの離脱が遅れます。適切な鎮静管理は、患者の安全と回復に欠かせないものなのです。
RASSは鎮静薬の投与量調整に加え、ICUせん妄の兆候を早期に捉えたり、興奮状態の患者に対する安全対策を検討したりする際にも活用されます。
意識レベルや脳神経系の障害を評価するための指標「JCS(Japan Coma Scale)」や「GCS(Japan Coma Scale)」とは、使用目的が異なる点に注意しましょう。
RASSの評価一覧表
RASSでは、患者の鎮静状態と興奮度を“-5”から“+4”までの10段階で評価します。「意識清明で落ち着いている状態」を“0”とし、プラスになるほど興奮の程度が強く、マイナスになるほど鎮静が強いことを示します。
以下の表は、RASSスコアと患者の状態を表したものです。
| スコア | 状態 | 説明 |
| +4 | 闘争的 | 暴力的で闘争的な行動がある |
| +3 | 非常に興奮 | チューブ類の自己抜去や攻撃的な行動がある |
| +2 | 興奮 | 目的のない動き、人工呼吸器とのファイティングが頻繁にみられる |
| +1 | 落ち着きがない | 不安でそわそわしているが攻撃的ではない |
| 0 | 意識清明 落ち着いている | |
| -1 | 傾眠 | 呼びかけに対し、10秒以上の開眼とアイコンタクトがある |
| -2 | 軽い鎮静 | 呼びかけに対し、10秒未満の開眼とアイコンタクトがある |
| -3 | 中等度鎮静 | 呼びかけに対し、体の動きや開眼があるがアイコンタクトはない |
| -4 | 深い鎮静 | 呼びかけへの反応はないが、身体刺激に対する反応や開眼がある |
| -5 | 昏睡 | 呼びかけにも身体刺激にも反応しない |
参照元:人工呼吸中の鎮静のためのガイドライン 日本呼吸療法医学会
数字が大きくなる(プラスになる)につれて興奮や不穏要素が高いことを示し、チューブの自己抜去をはじめとする突発的な事故が発生しやすくなります。一方、数字が小さくなる(マイナスになる)につれ鎮静度が深いことを示します。
RASSが用いられる場面
RASSは、手術室やICU、急性期病棟など、鎮静と人工呼吸管理が必要な場所で使用されます。評価を行うのは、麻酔科医や集中治療医、救急医などの医師、またこれらの部署に配属されている看護師です。
看護師はRASSを用いて鎮静度を評価し、その結果をもとにアセスメントやケアに反映させます。たとえば鎮静が浅く不穏状態がみられる場合には、医師に報告し、鎮静薬の調整を依頼します。反対に鎮静が深すぎる場合も、人工呼吸器の離脱が遅れる可能性があるため、医師へ報告することが大切です。
このようにRASSの評価結果は、看護師の適切な判断だけでなく、医療チームでの情報共有にも役立ちます。
RASSでわかること
RASSでは、患者の鎮静度を-5から+4までの10段階で評価します。一般的な目標値はRASS“0”から“-2”ですが、患者の状態や状況により、調整を行います。
鎮静が浅すぎる場合、患者は苦痛を感じやすく、不穏状態によるチューブ類の自己抜去などの危険も高まります。反対に深すぎる場合には、人工呼吸器の離脱が遅れ、治療期間の延長につながります。
看護師は決められた時間にRASSを用いた評価を繰り返し、スコアに変化があれば速やかに医師へ報告します。看護師が定期的な評価を行うことで、患者一人ひとりにとって適切な鎮静レベルを維持することができるのです。
RASSの評価方法

RASSの評価は、以下の3つのステップで行います。
ステップ1:患者を観察する(0~+4の判定)
30秒間、患者を視診のみで観察し、“0”から“+4”のスコアを判定します。自発的な動きや興奮がみられる場合には、このステップで評価が完了します。
ステップ2:呼びかけ刺激を与える(-1~-3の判定)
大声で名前を呼ぶ、または開眼を指示します。呼びかけに対する反応、アイコンタクトの持続時間により、-1からー3のどのスコアに該当するか判定します。
ステップ3:身体刺激を与える(-4~-5の判定)
呼びかけ刺激に対して反応がみられなければ、肩を揺するか胸骨を刺激します。身体刺激に対する反応から、スコア“-4”または“-5”の判定を下します。
上記のように3段階の評価を行うことにより、簡易的で迅速な判定が可能となります。
RASSの具体例

ここからはRASSの評価方法について、臨床現場での症例をもとに解説します。患者の状態をどう観察し、どのようにスコアを判定するのか、評価のポイントを理解しましょう。
症例1
「72歳の女性。大腸の悪性腫瘍術後2日目。人工呼吸管理中だが、呼吸・循環動態ともに安定してきたため、人工呼吸器からの離脱を検討している。
30秒間の観察では、患者は自発的に開眼しており、看護師の呼びかけに対してしっかりとアイコンタクトができる。『痛みはありますか』という質問に対し、頷きで返答し、表情も穏やかである」
RASS:0
患者は呼吸・循環動態ともに落ち着いており、アイコンタクトも可能です。簡単な質問に対して頷きで対応していることから、「意識清明で落ち着いている」状態と判断できるため、“0”と評価します。
症例2
「55歳の男性。急性心筋梗塞の術後1日目。人工呼吸器による管理をしながら循環動態の安定化を図っている。
30秒間の観察では、患者の自発開眼はみられない。大声で名前を呼び、開眼するよう指示すると、一瞬目を開けるが、すぐに閉眼してしまう。アイコンタクトは5秒程度で途切れ、呼びかけを繰り返しても同様の反応である」
RASS:-2
呼びかけに対して開眼する反応はみられるものの、アイコンタクトが10秒未満で途切れています。このことから「軽い鎮静」状態であると判断し、“-2”と評価します。
症例3
「43歳の男性。交通事故による多発外傷で気管挿管され、人工呼吸管理中。循環動態は不安定で、昇圧薬が投与されている。
30秒間の観察では、患者は頻繁に上肢を動かし、気管チューブに手を持っていこうとする動作が繰り返しみられる。看護師が手を押さえようとすると、腕を振り払おうとする。顔つきも険しく、激しく首を左右に振る様子がみられる」
RASS:+3
患者は気管チューブへ手を持っていく動作、看護師の制止を振り払うといった攻撃的な行動を繰り返しています。混乱や強い不快感による興奮状態にあると考えられることから、「非常に興奮した状態」と判断し、“+3”と評価します。
まとめ
この記事では、RASSの評価方法や使用場面、症例ごとの評価の考え方について解説しました。
RASSは、ICUや急性期病棟で鎮静薬を使用している患者の鎮静状態を正確に評価するためのスケールです。鎮静管理に携わる看護師は、RASSの評価方法を正しく理解しておきましょう。
定期的な評価を繰り返し行うことで、患者の状態変化を早期に発見し、適切な対応につなげられます。
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