看護師の仕事はハードで、離職率が高いというイメージを持っている人は多いのではないでしょうか。また、どのような理由で仕事を辞める看護師が多いのか、気になる人も少なくないでしょう。
日本看護協会では看護師の離職率を毎年調査しており、その結果から離職率の高い病院の特徴などを知ることができます。
この記事では、新卒・既卒看護師の離職率や、離職する理由、離職率が高い病院の特徴などを詳しく解説します。看護師として長く働きたい人や早期離職を避けたい人は、参考にしてください。
看護師の離職率
日本看護協会の調査をもとに、看護師の離職率について見ていきましょう。
正規雇用の看護師の離職率
日本看護協会による「2022年病院看護・助産実態調査」によると、新卒・既卒採用者を含む正規雇用看護師の2021年度の離職率は11.6%で、ここ5年間のなかでは最も高い数値となっています。
2020年度と比較すると1%上昇しているものの、2019年度は11.5%と0.1%しか差がないため、2020年度が一時的に下がっていたともいえます。
正規雇用の看護師の離職率を都道府県別で見ると、東京都と神奈川県がいずれも14.6%と最も高く、次いで大阪府(14.3%)、千葉県(13.5%)の順となり、大都市部で高い結果となりました。一方、離職率が低いのは青森県・山形県(ともに7.3%)、岩手県(7.4%)などでした。
設置主体別に見ると、離職率が最も高いのは個人病院(14.6%)、次いで医療法人(14.4%)となっています。また、病床規模別では、100~199 床(12.8%)、200〜299 床(12.2%)、99 床以下(12.1%)の順で、中小規模の病院で離職率が高い傾向にあります。
新卒採用者の離職率
同調査によると、2021年度の新卒採用者の離職率は10.3%で、2005年以降初めて10%を超えています。
2005年度は9.3%と高めでしたが、2020年度は8.2%と下がっていたため、2021年度の離職率は急激に上昇したことになります。
新卒採用者の離職率を都道府県別で見ると、香川県が17.3%と最も高く、次いで栃木県(14.3%)、長崎県(13.3%)という結果です。
設置主体別では個人病院が13.8%と最も高く、次いで社会福祉法人(13.4%)でした。病床規模別では、99 床以下(13.9%)、100〜199 床(12.7%)、300〜399床(11.8%)の順となっており、大規模病院での離職率も高い傾向にあります。
既卒採用者の離職率
2021年度の既卒採用者の離職率は16.8%と、新卒看護師の離職率より高い結果になっています。
2020年度の離職率は10.9%と低いものの、2008年度は20.8%、2018年度は17.7%であるため、過去に比べると2021年度の離職率は下がっているといえるでしょう。
都道府県別で見ると岩手県(24.0%)が最も高く、次いで大阪府(23.5%)、和歌山県(23.1%)の順でした。
設置主体別では個人病院が32.1%と最も離職率が高く、次いで医療法人(19.1%)です。病床規模別では、99 床以下(20.1%)、100〜199 床(18.2%)、200〜299 床(18.0%)の順で、新卒と比べ、中小規模の病院の離職率が高い傾向にあります。
待遇はよくなっても離職率は高い→離職率増加の背景には新型コロナウイルスの影響もある
2021年度はコロナ医療など、一定の役割を担う医療機関で働く看護師を対象とする「処遇改善事業補助金」を看護師の手当や基本給引き上げに使用した病院も多い年でした。補助金額は、看護師一人当たり月額平均4,000円の賃金引き上げに相当する額です。
こうした処遇改善の取り組みが行われたものの、離職率が増加した背景には、新型コロナウイルス感染症の影響があると考えられています。
日本看護協会の調査で、2021年度の離職者が増加したと回答した病院のうち、約38%は新型コロナウイルス感染症による影響だったことが分かっています。
参照元:日本看護協会|2022年病院看護・助産実態調査
参照元:厚生労働省|看護職員等処遇改善事業補助金の概要
離職率が高い病院の特徴
離職率が高い病院の特徴には、主に以下のようなものが挙げられます。
● 病床数が少ない・規模が小さい
● 個人病院
● 都市部の病院
それぞれ解説します。
病床数が少ない・規模が小さい
日本看護協会の調査結果では、病院の規模別ごとの離職率を見ると、病床数が少ない病院ほど離職率が高く、病床数が多いほど離職率が低くなる傾向がありました。
規模の小さい病院では、大病院ほど入職後の教育・研修体制が整っていないところが多いものです。そのため、スキルアップやキャリアアップを目指す看護師にとっては、物足りなさを感じる原因となるでしょう。
また、給与や福利厚生などの待遇面に対する不満が離職につながるケースも見られます。看護師は女性が多い傾向にあるため、出産や子育てといったライフステージの変化に柔軟に対応できる職場でなければ長く働き続けることは困難だといえるでしょう。
小規模な病院では、託児所の完備や時短勤務の導入、子どもの体調不良など、急な欠勤に対応できるだけの人手が不足していることもあり、離職につながりやすいと考えられます。
個人病院
設置主体別の離職率では、国立、公立などの公的病院に比べて、個人病院の離職率が高い傾向にありました。その理由として、個人病院は規模が小さい傾向にあり、公的病院に比べて人材が少なく、業務が多忙になりやすいことが挙げられます。
また、個人病院は都市部に多いため、次の転職先が見つかりやすいことも離職率の高さに影響していると想定されます。
さらに、個人病院では新卒・既卒看護師に対する教育体制が整っていなかったり、指導する人材が不足したりする可能性もあります。そのため、やりがいを感じられなかったり、将来への不安を感じたりし、離職につながるケースは少なくないでしょう。
都市部の病院
都道府県別の離職率では、東京や神奈川、大阪や千葉などの都市部ほど離職率が高い傾向にありました。離職率の低い岩手や山形と東京を比較すると、東京のほうが2倍程度高く、都市部の離職率の高さが顕著であることが分かります。
これは、地方に比べて都市部には医療機関が多く、次の就職先が見つかりやすい特性が影響していると考えられます。
都市部には大学病院をはじめ、規模の大きな病院が多く集まっています。大学病院や総合病院などでスキルを磨いたのち、個人病院や規模の小さな病院へ転職するケースもあるでしょう。また、規模の大きな病院では勉強会や委員会活動などが多く、こうした業務が負担となり、離職する人も少なくありません。
看護師が離職する理由
看護師が離職する理由はいくつかありますが、ここでは主に以下の4つについて解説します。
● 業務内容がハード
● 人間関係の悩みが多い
● 転職先の候補が多い
● ライフステージの変化
それぞれ見ていきましょう。
業務内容がハード
看護師の仕事は、患者の移動や介助など体力を要する、ハードな業務だといえます。また、病院では24時間体制で患者をケアする必要があり、24時間体制の交代勤務で働かなければなりません。
看護師の人数が不足している職場では、一人当たりの業務量が多くなったり、夜勤回数も増えたりします。1ヶ月の勤務時間や夜勤回数の制限はあるものの、人によっては夜勤が負担になったり、業務過多が原因で体調を崩したりして離職することも少なくありません。
また、スキルアップのための勉強会や研修、医療機関での委員会活動など、看護師としての役割以外の業務もたくさんあります。看護研究などでは、時間外や休日などを利用しなければならない場合も多く、こうした業務の負担も離職理由の1つとなります。
人間関係の悩みが多い
看護師の業務は患者の命に関わる場面が多く、1つのミスが大事になりえます。医師・上司・先輩からの厳しい指摘などを受けるなかで、人間関係の構築に悩んでしまう人は少なくありません。
看護師の在籍人数が少ない職場では、常に同じ人と業務を行わなければならず、良好な人間関係が築けなかったり、コミュニケーションがうまく図れなかったりすると、働きづらさから離職したくなる人は多くいます。
転職先の候補が多い
転職先の候補が多いことも、看護師が離職する理由の1つです。看護師は国家資格であり、離職しても一般職に比べ、転職しやすい傾向にあります。
医療機関だけでなく、介護施設など、高齢化にともない看護師不足な職場も多く、転職先が見つかりやすいといえるでしょう。特に都市部は病院や訪問看護ステーションなどが多く、離職に踏み切りやすい傾向があります。
ライフステージの変化
結婚や妊娠などのライフステージの変化に合わせて離職する看護師も多くいます。
院内保育所が整備されていなかったり、子育て支援が充実していなかったりすると、家庭と仕事を両立するのが難しく、やむを得ず離職を選ぶ人も多いでしょう。また「子どもが小さいうちは夜勤ができない」「しばらく育児に専念したい」など、いったん子育てに専念するため離職を選択する人もいます。
離職後、子育てが落ち着いて別の医療機関に再就職する人は多く、10年以上のブランクを経て復職を目指す看護師も少なくありません。
早期離職をしない!転職先を選ぶときのポイント
早期離職をせず、長く働ける職場を見つけるためのポイントは、以下の3つです。
● 福利厚生が充実しているか
● 人間関係は良好か
● 働きやすい勤務体制か
それぞれ見ていきましょう。
福利厚生が充実しているか
看護師が転職先を選ぶ際、福利厚生が充実しているかどうか、しっかり確認することが大切です。
給与の手当や休暇制度など、福利厚生が充実している病院ほど離職率が低い傾向にあります。特に、産休や育休制度や院内託児所などが充実していると、妊娠・出産のライフステージの変化があっても復帰や両立がしやすく、長く働き続けられる条件の1つとなるでしょう。
人間関係は良好か
職場の人間関係は、看護師の離職理由の1つです。転職を検討している場合、人間関係がよいところを選びたいものです。
ただし、人間関係の良し悪しは、実際に働いてみないと分からないものです。過去に勤めていた人に聞いたり、事前に職場見学をしたりして、雰囲気をチェックしておくとよいでしょう。職場見学では、すれ違う際にスタッフが挨拶をしてくれるか、ギスギスした雰囲気はないかなどが指標になるでしょう。
働きやすい勤務体制か
転職先を選ぶ際、働きやすい勤務体制かどうかを確認することも忘れてはなりません。
看護師の業務はハードなため、年間休日数や長期休暇の有無、研修や残業の有無などをチェックし、休む時間をきちんと確保できるかを調べることが大切です。特に、夜勤は2交代制と3交代制で働きやすさが変わるため、忘れずに調べておきましょう。
まとめ
今回は、新卒・既卒看護師の離職率や離職率が高い病院の特徴などを、日本看護協会の調査結果をもとに詳しく解説しました。
病床数の少ない個人病院や、転職先が見つかりやすい都心部の病院などは、新卒・既卒看護師の離職率が高い傾向にあります。
看護師は転職先の候補は多いものの、長く働ける職場を選びたいものです。自分がどのような病院でスキルアップしたいか、どのようなライフスタイルを送りたいかをしっかりと考えて、転職先を選ぶようにしましょう。
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