看護師にとって、患者の意識状態を正確に評価することは重要なスキルです。とくに急変時や救急の場面では、医師や他の看護師に、患者の意識レベルを客観的かつ簡潔に伝える必要があります。このときに役立つのが、“JCS”と“GCS”です。
この記事では、JCSとGCSの基本的な評価方法から、意識障害の主な原因の覚え方“AIUEOTIPS”、意識障害への対応の流れまで、看護師として知っておくべきポイントを解説します。
患者の状態を適切に評価し、迅速な対応につなげるための参考にしてください。
参考:
成美堂書店 ゼロからわかる救急・急変看護
日本内科学会雑誌第99巻第5号 意識障害
JCS・GCSとは?
意識障害のある患者の看護を行う際、患者の意識レベルを客観的に評価するための指標として、日本では主に“JCS(Japan Coma Scale)”と“GCS(Glasgow Coma Scale)”の2つのスケールが使用されています。
スケールの内容は、それぞれ以下のとおりです。
■ JCS(Japan Coma Scale/ジャパン・コーマ・スケール)
Ⅰ.覚醒している状態 | |
Ⅰ-0 | 意識清明 |
Ⅰ-1 | だいたい意識清明だが、いまひとつはっきりしない |
Ⅰ-2 | 時間や場所、人物がわからない(見当識障害) |
Ⅰ-3 | 自分の名前、生年月日がいえない |
Ⅱ.刺激すると一時的に覚醒する状態(2桁で表現) | |
Ⅱ-10 | ふつうの呼びかけで、容易に開眼する |
Ⅱ-20 | 大声、身体の揺さぶりで開眼する |
Ⅱ-30 | 痛みや刺激を加え、呼びかけを続けることでかろうじて開眼する |
Ⅲ.刺激しても覚醒しない状態(3桁で表現) | |
Ⅲ-100 | 痛みに対し、払いのけるような動作をする |
Ⅲ-200 | 痛みや刺激に対し、手足を動かしたり顔をしかめたりする |
Ⅲ-300 | 痛みや刺激に反応しない |
必要に応じ、患者の状態を付加する
R(restlessness):不穏
I(incontinence):失禁
A(akinestic mutism,apallic state):自発性喪失
■ GCS(Glasgow Coma Scale/グラスゴー・コーマ・スケール)
E:開眼 (Eye opening) |
自発的に開眼する…4 |
呼びかけによって開眼する…3 |
痛み刺激によって開眼する…2 |
まったく開眼しない…1 |
V:言語反応 (best Verbal response) |
見当識が良好である(時間・場所・人物などがわかる)…5 |
会話が混乱し、錯乱状態である…4 |
会話が混乱し、不適当な単語を発する…3 |
発声はあるが理解不能である…2 |
発声しない…1 |
M:運動反応 (best Motor response) |
指示に従うことができる…6 |
痛み刺激を認識し、痛い場所に手足を持っていくことができる…5 |
痛み刺激を認識し、手足を引っ込めることができる(逃避反射)…4 |
四肢の除皮質固縮(異常屈折)がある…3 |
四肢の除脳固縮(異常伸展)がある…2 |
まったく動かない…1 |
15点:正常 14点:軽症 9〜13点:中等症 3〜8点:重症 |
“JCS”と“GCS”どちらも意識障害の評価を行うための指標ですが、その特徴は異なります。それぞれ見ていきましょう。
JCSについて
JCSは、日本で広く普及している意識障害の評価方法です。意識レベルを0から300までの数値で表し、数値が大きくなるほど意識障害が重度であることを示します。「3-3-9度方式」と呼ばれることもあります。
JCSでは、刺激に対する患者の反応によって意識レベルを判断します。意識清明である状態は「Ⅰ-0」、痛みや刺激を加えてもまったく反応しない状態は「Ⅲ-300」です。
JCSは迅速に評価しやすいことが特徴で、救急現場や急変時など、素早い判断が求められる状況で役立ちます。看護師が患者の意識状態を観察・記録する際だけでなく、救急隊員との情報共有や医師への報告に使用されるなど、医療チーム内での共通言語としても重要な役割を果たしています。
GCSについて
GCSは、国際的に広く採用されている意識障害の評価指標です。GCSでは、意識状態を次の3つの要素に分けて評価します。
● E(Eye opening:開眼)
● V(best Verbal response:言語反応)
● M(best Motor response:運動反応)
3要素のそれぞれを点数化し、その合計点(3~15点)で意識障害の重症度を判定します。
臨床的には、“GCS 8点以下”が重症と判断され、緊急度が高いとされています。また観察中、短時間でGCSが2点以上低下した場合は、病態が急速に悪化していることを示し、緊急対応が必要であると判断します。
GCSは、意識状態を細かく分析できますが、JCSと比較すると評価方法がやや複雑で、点数算出に時間がかかるという側面があります。
JCS・GCS評価方法の例
臨床現場で患者の意識レベルを正確に評価するためには、JCSとGCSの評価指標を正確に理解し、患者の状態と照らし合わせて考えなければなりません。ここでは具体的な患者の状態から、JCS・GCSでの評価例をそれぞれ紹介します。
【例1】65歳男性、脳出血の疑いで救急搬送された患者
患者の状態:
● 自発的に開眼しない
● 肩を叩きながら名前を呼ぶと、一時的に目を開けるが、すぐに閉眼する
● 呼びかけに対して「ううん…」と不明瞭な発声がある
● 胸骨を強く擦ると、その刺激を払いのけようとする動きがある
JCS評価:JCSⅡ-20
患者は自発的に開眼していないため、JCSのⅡ(刺激すると一時的に覚醒する状態)に相当します。肩を叩きながら名前を呼ぶという大きな刺激で開眼したことから、「JCS Ⅱ-20」と評価します。痛み刺激を加えなくても、呼びかけにより開眼していることが“20”と評価するポイントです。
GCS評価:E3 V2 M5 合計10点
● E(開眼):言葉による呼びかけで開眼するため「3点」
● V(言語):不明瞭な発声のみで、意味のある言葉や単語が発せられていないため「2点」
● M(運動):痛み刺激に対して、その刺激部位に手を持っていき、払いのける動作があるため「5点」
【例2】78歳女性、転倒後に意識レベルが低下して来院
● 自発的に目を開けている
● 質問に答えようとするが、「今日は…えっと…何曜日だっけ?」と混乱した様子で会話が続かない
● 名前は答えられるが、現在の年月日や場所については答えられない
● 「手を握ってください」の指示には従える
● 失禁が認められる
JCS評価:JCS Ⅰ-2-I
患者は自発的に開眼しているため、JCSのⅠ(刺激しないでも覚醒している)に相当します。また名前は言えますが、時間や場所の見当識障害があるため、JCSⅠ-2と評価します。失禁も認められるため「I」を付記し、総合評価の結果は「JCS Ⅰ-2-I」となります。
GCS評価:E4 V4 M6、合計14点
E(開眼):自発的に開眼しているため「4点」
V(言語):会話はしているが混乱しており、見当識が不十分なため「4点」
M(運動):指示に従って手を握る動作ができるため「6点」
これらの例からも分かるように、同じ患者であってもJCSとGCSでは評価の視点や表現方法が異なります。
また、JCSでは意識レベルの低下だけでなく、不穏状態(R)や失禁(I)などの付随する症状も記録できる点が特徴です。どちらの評価指標も、患者の意識状態を医療チーム内で正確に共有するために欠かせないものなのです。
意識障害の原因を示す「AIUEOTIPS」
意識レベルが低下した患者の対応時は、素早く原因を特定し、必要な処置を行うことが大切です。意識障害の原因を体系的に考えるための覚え方として、医療現場では「AIUEOTIPS(あいうえおちっぷす)」が用いられます。
以下の表は「AIUEOTIPS」が示す英単語と日本語訳です。それぞれの概要について知っておきましょう。
略字 | 英単語 | 日本語訳 |
A | Alcohol | アルコール |
I | Insulin | インスリンによる低血糖 |
U | Uremia | 尿毒症 |
E | Encephalopathy Endocrine Electrolytes | 脳症・脳炎 内分泌 電解質異常 |
O | Overdose Oxygen | 薬物中毒 低酸素血症 |
T | Trauma Temperature | 外傷 体温異常 |
I | Infection | 感染症 |
P | Psychogenic | 精神疾患 |
S | Shock Seizure Stroke | ショック てんかん 脳血管障害 |
A:アルコール
Aは、お酒の飲みすぎによる急性アルコール中毒を指します。
アルコール依存症の患者でとくに注意したいのは、ウェルニッケ脳症です。ウェルニッケ脳症はビタミンB1が不足して起きる疾患で、対応が遅れた場合、後遺症が残ることがあります。
また、酔った状態で転倒し、頭を打った可能性もあるため、頭部CTで出血がないか確認する必要があります。
I:インスリンによる低血糖
血糖値の異常は、意識障害の原因のひとつです。とくに低血糖は緊急性が高く、すぐに対処する必要があるため、血糖値を確認します。
U:尿毒症
Uは尿毒症を示します。尿毒症は、腎臓機能の低下により体内に老廃物が溜まることで起こる症状です。意識レベルの異常が現れることがあります。
E:脳症・内分泌・電解質異常
Eは3つあり、脳症・内分泌疾患・電解質異常です。脳症では、血圧が異常に高くなる高血圧性脳症、肝臓の働きが悪くなって毒素が溜まる肝性脳症などが考えられます。また内分泌障害や電解質の異常も、意識障害を引き起こします。
O:薬物中毒・低酸素血症
薬の過剰摂取や低酸素状態も意識障害の原因となります。薬物中毒には、精神科の薬や痛み止め、睡眠薬などが関係していることが多く、尿検査で薬物のスクリーニングを行います。
低酸素状態は命に関わる緊急事態で、すぐに酸素投与を始め、場合によっては人工呼吸器を使用することもあるでしょう。また、慢性的な肺の病気で二酸化炭素が溜まる「CO2ナルコーシス」も意識障害の原因となります。
T:外傷・体温異常
頭を打った後の意識障害の際は、頭の中で出血していないか頭部CTで確認します。とくにふだんから抗凝固薬を飲んでいる患者は、軽い打撲でも出血を起こすことがあるので注意が必要です。
また熱中症や低体温症など、体温の異常により意識障害が現れる場合もあります。
I:感染症
感染症による意識障害も考えられます。脳や髄膜の感染症だけでなく、肺炎や尿路感染症などの全身の感染症でも意識レベルが低下することがあります。
P:精神疾患
検査の結果、意識障害に関する身体的な原因が見つからない場合には、精神疾患が疑われます。
S:ショック・てんかん・脳血管障害
患者がショック状態に陥ると、血圧の低下により脳への血流が減少し、意識レベルが低下します。早急に輸液や昇圧剤で循環を安定させる必要があります。
てんかん発作が起きた場合、通常は発作後、徐々に意識状態が回復します。診断には脳波検査が行われます。
脳血管障害については、頭部CTやMRIで診断し、状況に応じた治療を行います。発症から治療開始までの時間が回復の程度に大きく影響するため、迅速な対応が求められます。
参照元:
ウェルニッケ脳症 – 24. その他のトピック – MSDマニュアル プロフェッショナル版、肝性脳症 – 04. 肝臓と胆嚢の病気 – MSDマニュアル家庭版、急性期の呼吸ケアで気を付けること【CO₂ナルコーシス】日本急性期ケア協会
意識障害の患者への対応
看護師は、意識障害の患者に最初に遭遇することも多いでしょう。迅速かつ的確な判断と対処を行うためにも、対応の流れを把握しておきましょう。
迅速評価
患者に接触してからの数秒間で、視覚・聴覚・触覚を使いながら状態を把握します。迅速評価では、主に以下の項目を素早く評価します。
● B(呼吸)
● C(循環)
● 意識レベル
皮膚の色や冷感、呼吸の様子、呼びかけや刺激への反応の程度などから、緊急性を判断しましょう。呼吸や循環に異常を認めた場合、すぐに気道確保や胸骨圧迫などの救命処置を開始します。また医師や他の医療スタッフに、応援を要請します。
一次評価
呼吸・循環が安定したら、以下のようなバイタルサインの測定や身体診察を通じて、より詳細に患者の状態を評価します。
脈拍
血圧
意識
体温
血糖値
バイタルサイン測定中に生命危機の徴候があれば、その場で救命処置を開始します。意識レベルが低下している患者には、舌根沈下による気道閉塞のリスクがあるため、体位の調整を行いましょう。
低血糖による意識障害が疑われる場合は、血糖測定も行います。
二次評価
二次評価では、患者の病態に関する情報収集や原因検索のための評価を行います。病歴・既往歴、神経学的初見、内服薬、発症状況などを確認し、必要な検査がスムーズに行えるよう、介助します。
意識障害の患者に対しては、観察と対応を同時進行で行いながら、原因の特定と適切な治療につなげていくことが重要です。看護師は、常に意識レベルやバイタルサインの変化に注意を払いつつ、検査や治療がスムーズに行えるよう準備を進めます。
まとめ
この記事では、意識障害の評価に用いられるJCSとGCS、意識障害の主な原因の覚え方、対応の流れについて解説しました。
JCSとGCSは、どちらも意識障害の程度を客観的に評価し、医療チーム内での情報共有を円滑にするツールです。意識障害の評価や対応は、急性期から回復期まで、あらゆる臨床現場で必要とされるスキルです。しっかりと身につけておきましょう。
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意識障害の評価や対応などのスキルを実践的に身につけたい場合には、急性期病院や救急医療の現場で、実際に患者と関わりながら経験を積むことが大切です。
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