エンゼルケアは、亡くなった患者さんの尊厳を守り、遺族の心のケアを行う大切な看護業務です。
この記事では、看護師がエンゼルケアを行う目的や具体的な流れ、注意点について詳しく解説します。
エンゼルケアに不安を感じている人も、適切な知識を身につけ、安心して対応できるようになりましょう。
看護師が行うエンゼルケアとは?
エンゼルケアとは、患者が亡くなった後に行われる死後のケア全般を指します。保清や整容、エンゼルメイクを通じて遺体を整え、尊厳を保つことを目的に行います。
また、看護師は遺族への配慮なども含め、最後のお別れが穏やかに行えるようサポートする役割も果たします。
病院や介護福祉施設では看護師が主にエンゼルケアを担当し、自宅では訪問看護師がケアを行います。
看護師が行うエンゼルケアの目的
エンゼルケアの目的は、亡くなった患者の尊厳を守り、遺族に安心して最後のお別れをしてもらうことです。看護師にはセルフケアが行えない患者の代わりに、身体を清潔にしたり身だしなみを整えたりすることが求められます。
1.個人の尊厳を守るため
エンゼルケアは、故人の尊厳を守るために欠かせない看護業務の1つです。終末期には体力が衰え、患者がセルフケアを行うことが困難になります。看護師は患者の代理で保清や整容を行うのです。
特に重要なのは、医療器具の痕跡や傷跡をなるべく目立たないよう整え、生前の姿に近づけることです。遺族の意向を反映させながら、故人が最後まで尊厳を保てるよう、丁寧なケアを行います。
2.遺族のグリーフケアのため
エンゼルケアは、遺族のグリーフケアの一環としても重要な役目をもちます。故人の姿を整えることは、遺族への配慮でもあり、大切な人を亡くした心の痛みを和らげることにもつながります。
また、清拭や着替えを遺族と共に行うことで、故人との最後の時間を共有し、死を受け入れる一助となるでしょう。エンゼルケアには、遺族の心の整理をしやすくすることも期待されるのです。
3.感染症予防のため
エンゼルケアには、感染症予防の役割もあります。死後、時間が経つにつれてご遺体が腐敗し、体液や血液が漏れると、遺族や医療スタッフ、葬儀会社の担当者らへの感染リスクが高まります。
看護師が適切な処置を施すことで、これらのリスクを最小限に抑え、ご遺体を衛生的に管理できるのです。
看護師によるエンゼルケアの流れ
エンゼルケアの流れは、ご遺体の状態や遺族の意向、施設の方針により異なりますが、ここでは一般的な流れを紹介します。医師の死亡確認後、看護師が中心となり、遺族と共にケアを進めます。
遺族への事前説明・確認
看護師は医師の死亡宣告時に立ち会い、遺族に声をかけ、お別れの時間を確保します。その後、エンゼルケアを行うにあたり、遺族にケア内容や医療器具の取り外しなどについて説明します。
また、清拭や着替えに遺族が参加するか、希望する衣類があるかなどの意向確認も行います。
さらに、遺族に葬儀会社の手配や到着時間、退院までの流れを説明し、不安を和らげることも大切な役割です。
医療器具の取り外し
感染予防のために防護具を着用し、まず点滴やチューブ類を丁寧に取り外します。
ご遺体の皮膚は脆弱で傷つきやすいため、慎重な処置が必要です。死後、抜去が必要な医療機器には、主に以下のようなものがあります。
● 人工呼吸器
● ドレーン類
● ストーマ
● 中心・末梢静脈カテーテル
● ペースメーカー
● 皮下埋め込み型中心静脈ポート
また、ペースメーカーなどの取り扱いは、施設のマニュアルに準じて行います。取り外しに関して遺族の意向を確認し、処置に時間がかかる場合は、葬儀会社への連絡も担います。
傷の手当や体液の処置
医療器具を取り外した跡の縫合や体液漏れを防ぐための詰め物、目・鼻のケアを行います。創部はフィルム材やガーゼで保護します。これらの処置は必要に応じて、医師の協力を得ながら進めます。
整容
エンゼルケアでは、清潔で整った状態を保つために、髪を整え、髭剃りや口腔ケアを丁寧に行います。特に、口腔ケアは丁寧に行い、硬直によって口が開いたままになるのを防ぐため、顎の下にタオルを挟みます。
また、遺族の意向があれば、洗髪や手浴、爪切りなどを行います。
全身の清拭と保湿
全身清拭は、ご遺体を清潔な状態に保つために行います。故人のプライバシーを守るべく、大判のタオルで身体を覆いながら、優しく拭きます。特に皮膚は弱くなっているため、そっと当てる程度で清拭し、乾燥を防ぐために保湿も行います。
清拭は、遺族も参加しやすいケアです。故人との最後のふれあいの機会にもなるため、遺族の希望がある場合には参加してもらいましょう。
エンゼルメイク
遺族の希望があれば、エンゼルメイクを一緒に行います。故人が使用していた化粧品や好みのメイクを反映させ、自然な顔色に近づけることが大切です。
死後は、時間の経過とともに皮膚の色が変化します。エンゼルメイクは、整容や乾燥防止の目的だけでなく、皮膚色の変化の緩和にも役立ちます。
本人や遺族の要望に沿って着替えを行う
遺族の要望を聞き、故人が生前に好んでいた服や遺族が持参した衣服に着替えさせます。最近は洋装が一般的で、遺族の思い出が詰まった服を着用するケースが多い傾向にあります。
遺族が希望する場合、袖を通してもらうなど一緒に着替えを行うことも少なくありません。着替えの際には、プライバシーに配慮し、丁寧に行いましょう。
遺族への確認と体勢の調整
遺族に確認しながら、故人の体勢を整えます。合掌や顔に白い布を被せるなどの慣習的な処置は、遺族の希望に応じて行います。
看護師がエンゼルケアを行う際に心がけるべきこと
エンゼルケアを行う際、看護師が心がけるべきポイントは、死後の変化のプロセスの把握、遺族への配慮、丁寧なケアなどです。
身体の死後変化のプロセスを把握しておく
エンゼルケアでは、死後の身体変化について把握・理解し、その変化に応じて適切な対応を行うことが重要になります。
遺体は、時間の経過とともに硬直や乾燥、腐敗が進みます。例えば、皮膚の蒼白化は死後30分で始まり、全身の硬直は3〜6時間で進行します。
これらの変化を把握しておくことで、適切なケアが可能となります。と同時に、故人の尊厳を保ち、遺族にとっても安心できるエンゼルケアを提供することができるでしょう。
亡くなった患者さんへの接し方
亡くなった患者への接し方に戸惑う看護師もいるかもしれませんが、エンゼルケアの際も、生前と同じように「温かいタオルを当てますね」「横向きにしますね」などの声かけを必ず行いましょう。
反応がないからと無言でケアを進めるのではなく、これまでと同様に丁寧に接することで、遺族に安心感を与えられ、感謝されることでしょう。このように、亡くなった後も患者への敬意を忘れずに接することが重要です。
丁寧にケアを行う
エンゼルケアは、看護師が提供する最後の看護です。ふだんのケアよりも時間をかけ、一つ一つのケアを丁寧に行うことが大切です。
遺族にとっては、看護師の業務スピードが速く感じられることもあります。エンゼルケアは遺族の様子に配慮し、ゆっくりと進める意識をもちましょう。
特に口腔ケアは優先度が高く、迅速に行う必要がありますが、それ以外のケアは、遺族が故人と穏やかに別れの時間を過ごせるよう、丁寧さを心がけましょう。
遺族への配慮
患者が亡くなった直後の遺族は、現実の時間よりもゆっくりとした時間の流れを感じていることが多いものです。
このため、エンゼルケアはふだんよりもゆっくりと進め、遺族の気持ちに寄り添うことが大切です。一緒に清拭や着替えを行う、ケアの様子を見守ってもらうなど、遺族ができるケアを提案し、参加を促しましょう。
また、故人の温もりが残っているうちに、家族だけの時間を設けるなど、遺族の心の整理をサポートすることが求められます。
看護師がエンゼルケアをするのがつらいと感じた際の対処法
患者の死に直面し、遺族の悲しむ姿を見ると、看護師も心理的な負担を感じるものです。ここでは、エンゼルケアがつらいと感じたときの対処法について解説します。
上司へ相談する
エンゼルケアがつらいと感じる場合、まずは上司や先輩に相談してみましょう。同じ経験を持つ先輩なら、その気持ちを理解し、適切なアドバイスをしてくれるかもしれません。
また、状況によっては、他の看護師が業務を代わりに担うなどの配慮が得られる場合もあります。誰かに相談することで、気持ちが軽くなる場合もあるでしょう。
看取りが少ない部署への異動を申し出る
エンゼルケアがつらい場合には、看取りが少ない部署への異動を検討するのも一つの方法です。事前に異動希望を出しておくことで、異動のタイミングを考慮してもらえる可能性があります。
異動は転職よりも環境変化の負担が少なく、現職を続けながら心の負担を軽減できる方法として有効です。
看取りの少ない職場へ転職する
エンゼルケアを避けられない場合、看取りの少ない職場への転職を検討するのも一つの選択肢です。
整形外科病棟や回復期リハビリテーション病棟、外来、クリニックなど、看取りの機会が少ない部署や職場を選ぶことで、精神的な負担を軽減することができます。慎重に情報を集め、自分に合った職場を選びましょう。
まとめ
エンゼルケアは、日頃の清潔ケアと大きく異なるものではありませんが、遺体の変化や遺族の心情に配慮した対応が求められます。
慣れないうちは、職場のマニュアルを参考にし、先輩と共に行いましょう。そうすることで余裕が生まれ、遺族とのコミュニケーションもスムーズに進められるでしょう。
しかし、患者の死や遺族の悲しみに直面し、看護師自身がつらさを感じることも少なくありません。エンゼルケアが苦しいと感じたときは、看護職専門の転職エージェント「スマイルナース」にご相談ください。
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