心肺停止とは、心臓と呼吸が止まり、生命維持ができない状態のことです。適切な処置を行うことで生き返る可能性があり、医療従事者による迅速な対応が救命率を大きく左右します。
この記事では、心肺停止の原因から死亡との違い、生存確率を高めるAEDや胸骨圧迫を用いた効果的な蘇生方法まで、詳しく解説します。
心肺停止の定義とは
心肺停止とは、心臓の拍動と呼吸が止まり、全身に血液や酸素が行き渡らなくなった状態を指します。意識がなく、脈拍が触れない、呼吸が確認できない、または「あえぎ呼吸」と呼ばれる異常な呼吸がみられるときに、心肺停止と判断されます。
心肺停止してから数分以内に対応しなければ、脳や臓器が損傷し、生き返る確率が著しく低下します。そのため、できる限り早く、適切な蘇生処置を行うことが重要です。
参照元:総務省消防庁救急企画室|心肺機能停止傷病者の救命率等の状況
心肺停止からの救命率
心肺停止からの救命率は、応急処置の有無やタイミングで大きく変わります。
総務省の調査では、119番通報から救急隊の到着までに平均8.9分かかるとされています。心原性の心停止を一般市民が目撃した症例では、市民による応急手当や除細動実施の有無で1ヶ月後の生存率に2〜4倍以上の差がありました。
心肺停止からの救命率を高めるには、現場に居合わせた人による迅速な対応が極めて重要です。
参照元:総務省消防庁救急企画室|心肺機能停止傷病者の救命率等の状況、総務省消防庁|一般市民向け応急手当WEB講習, 救命処置の重要性
心肺停止と死亡状態の違い
心肺停止とは、心臓と呼吸の機能が止まり、意識・脈拍・呼吸が確認できない状態を指しますが、適切な処置により回復する可能性があるため、「死亡」とは異なります。
厚生労働省では心肺停止を「重篤」と分類し、心肺蘇生を行った症例も含まれます。一方で「死亡」は、初診時に医師などにより不可逆的な死が確認された状態です。
心肺停止は“死に至る寸前の状態”であり、早期に処置を行うことで社会復帰に至るケースもあります。
参照元:厚生労働省|重症度と緊急度
心肺停止の原因とは
心肺停止の原因の多くは、心筋梗塞や重度の不整脈、急性心不全、肺塞栓症、くも膜下出血などの急性疾患によるものです。
そのほか、外傷も心肺停止の原因の1つです。例えば、交通事故や転落による頭部・胸部の強い衝撃、大量出血、窒息、溺水、中毒などが挙げられます。
いずれも心臓や呼吸機能に致命的な障害をもたらし、全身への血流が止まることで心肺停止に至ります。基礎疾患の有無や事故の状況、年齢や体力によっても発症リスクは大きく異なります。
心停止の種類
心停止とは、心臓が全身へ血液を送り出せなくなった状態の総称です。この状態が続くと、脳や臓器への酸素供給が断たれ、数分以内に生命の危機に陥ることも珍しくありません。
心停止にはいくつかの分類があり、特に医療現場では心電図の波形に基づいて、「心室細動」「無脈性心室頻拍」「無脈性電気活動」「心静止」の4つに分けられます。
ここからは、それぞれについて詳しく解説します。
心室細動(VF)
心室細動(VT)は、心室がけいれんのように不規則に震え、正常な拍動ができなくなる致死性の不整脈です。
心臓の血液を送り出す機能が失われるため、実質的に心停止と同じ状態となります。原因としては心筋梗塞や心筋症などが挙げられ、突然発症することもあります。
心室細動に対し電気ショック(除細動)を含む早急な処置が行われなければ、死に至る危険性が非常に高くなります。
無脈性心室頻脈(Pulseless VT)
無脈性心室頻拍(PVT:Pulseless VT)は、心室が異常に速く、かつ規則的に収縮する不整脈で、心拍はあるものの脈が触れず、全身に血液が行き渡らない状態です。
心電図では、幅広いQRS波が連続して現れます。心室細動と同様に致死性不整脈であり、迅速な除細動と心肺蘇生(CPR)が必要です。
無脈性心室頻脈は適切な処置が遅れると、心室細動や心静止に移行し、救命の可能性が低下します。
無脈性電気活動(PEA)
無脈性電気活動(PEA:Pulseless Electrical Activity)とは、心電図上は心拍があるように見えても、実際には心臓が血液を送り出しておらず、脈拍が確認できない状態のことです。
心筋が機能していないため、実質的には心停止と同様の状態です。原因は多岐にわたり、心タンポナーデ、肺塞栓、大出血、低体温、薬物中毒などが挙げられます。
無脈性電気活動に対しては電気ショックではなく、原因の除去と心肺蘇生による対応が必要なため、判断力と迅速な処置が求められます。
心静止
心静止とは、心臓が完全に活動を停止し、心電図上で波形がほぼ平坦になる状態を指します。
心静止は心室細動や無脈性心室頻拍などを経て進行することが多く、心臓が血液を全く送り出せない状態のため、最も深刻な心停止に分類されます。電気ショック(除細動)では効果がなく、心肺蘇生と同時に薬剤投与や原因の迅速な特定と対処が必要です。
蘇生が成功する可能性は極めて低く、迅速かつ的確な対応が生命を左右します。
AEDを用いた心肺蘇生の処置
AED(自動体外式除細動器)は、心室細動や無脈性心室頻拍などの致死性不整脈を検出し、必要に応じて電気ショックを与える医療機器です。
心電図を自動解析し、電気ショックの必要性を判断するため、一般市民でも安全に使用できます。音声ガイダンスに従って操作することで、迅速な除細動が可能となり、心停止からの救命率向上に寄与します。
公共施設や駅、学校など多くの場所に設置されており、緊急時の使用が推奨されています。
参照元:総務省消防庁救急企画室|心肺機能停止傷病者の救命率等の状況
AEDを用いた応急処置が重要視される理由
AEDは、心室細動などの致死性不整脈に対する根本的治療・電気ショック(除細動)を行う医療機器で、救急隊の到着前に実施できる唯一の手段です。心停止を目撃した際、すぐにAEDを用いた処置を行うことが生存率を大きく左右します。
AEDは一般市民が操作できる設計になっており、誰でも使えますが、緊急時に確実に対応するためには、事前に操作方法を理解しておく必要があります。
AEDを用いた処置の流れ
AEDを用いた処置の流れは、以下の通りです。
2.心肺停止の状態であることを確認したら、胸骨圧迫を開始する
3.AEDを用意し電源を入れる
4.上半身の衣服を除き、パッドを胸部に貼る
2.電気ショックが必要と判断されたら、周囲の人に離れるよう指示を出し、ショックボタンを押す
3.直後に胸骨圧迫を再開し、次の指示まで継続する
AEDの操作は簡単ですが、周囲の安全確保と冷静な対応が重要です。
胸骨圧迫を用いた心肺蘇生の処置
胸骨圧迫は、心肺停止時に心臓の代わりに血液を全身に送り出すための重要な救命処置で、以下のような流れで行います。
2.手の位置の調整:胸の中央(胸骨の下半分)に片方の手のひらを置き、その上にもう一方の手を重ねる
3.圧迫の実施:肘をまっすぐに伸ばし、体重をかけて胸が約5cm沈むように、1分間に100~120回のテンポで圧迫する
4.圧迫の継続: 圧迫と圧迫の間は胸が元の高さに戻るようにし、絶え間なく続ける
これらの手順を正確に行うことで、心肺蘇生の効果を高めることができます。
胸骨圧迫では脳と心臓に血流を送ることが可能
胸骨圧迫は、心肺停止時に心臓の代わりとなって血液を循環させる重要な救命処置です。
胸骨圧迫を行うことで、胸腔内の圧力が変化し、心臓が圧迫されて血液が大動脈を通じて全身に送り出されます。この人工的なポンプ作用により、特に脳と心臓への血流が確保されるのです。
胸骨圧迫による血流は、主に大動脈を通じて供給されるため、脳や心臓などの主要臓器に優先的に届きます。一方、四肢や末梢の臓器には十分な血流が届きにくく、酸素供給が制限されます。
心肺蘇生ガイドラインに「強く、速く、絶え間なく」と記載されている理由
心肺蘇生ガイドラインにある「強く、速く、絶え間なく」は、すべて科学的根拠に基づく重要な要素です。
胸骨を約5cm圧迫することで十分な血流が得られ、浅すぎれば効果が乏しく、深すぎれば臓器を損傷する可能性があります。1分間に100〜120回というテンポは脳や心臓への血流が最大になるとされ、中断すればその効果は低下します。
質の高い圧迫を行うには、正しい手技を習得し、継続的に訓練を重ねることが重要です。
まとめ
心肺停止は一刻を争う緊急事態であり、早期のAED使用と胸骨圧迫が生存率を大きく左右します。
心停止の種類や正しい蘇生手技を理解し、確実に実践できるようにしておくことは、看護師として非常に重要です。緊急時に冷静かつ的確な対応を行うためにも、日頃から救命処置の知識と技術を見直しておくことが求められます。
救命の現場で自信をもって行動できるよう、定期的な訓練や最新情報の確認を心がけましょう。
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