需要が高まる特定看護師とは?なる方法や研修内容・メリットを解説

特定看護師とは、2015年に創設された「特定行為に関わる看護師の研修制度」の研修を終了した看護師のことです。

超高齢化社会を迎える日本では、高度な医療行為が行える特定看護師の需要が高まっています。とはいえ、特定看護師にはどういった特徴があるのか、よく分からない人は多いのではないでしょうか。

この記事では、特定看護師が実施できる特定行為やなる方法・研修内容・メリットなどを解説します。特定看護師の概要を知り、活躍の場を広げたい人は、参考にしてください。

特定看護師とは特定行為が行える看護師のこと

特定看護師とは、法律上の資格ではありません。2015年10月から開始された「特定行為に関わる看護師の研修制度」の研修を修了し、手順書に基づく特定行為が行える看護師のことです。研修によって特定看護師は、高度で専門的な知識を身につけられます。

通常、患者の症状に異変を感じたら、看護師は医師に病状を報告します。報告を受けた医師からの指示を受け、看護師は処置を施すのが一般的な流れです。

特定行為研修を修了した特定看護師であれば、自ら患者の状態を見極め、タイムリーな対応ができるようになります。そのため、質の高い医療が提供できます。

手順書とは

特定看護師が特定行為を行うためには、事前に医師が作成した手順書が必要です。手順書は、医師または歯科医師が、看護師に診療の補助を行わせるための指示として作成する文書のことです。
手順書の具体的な記載事項は、以下のとおりです。

● 看護師に診療の補助を行わせる患者の病状の範囲
● 診療の補助の内容
● 当該手順書に係る特定行為の対象となる患者
● 特定行為を行うときに確認すべき事項
● 医療の安全を確保するために医師又は歯科医師との連絡が必要となった場合の連絡体制
● 特定行為を行った後の医師又は歯科医師に対する報告の方法

また、手順書に記載する内容は、各医療機関における現場の判断によって、具体的に追加できます。

参考:手順書とは|日本看護協会

特定行為の内容

特定看護師が行える特定行為とは、診療の補助で、実践的な理解力・思考力・判断力、並びに高度で専門的な知識・技能が特に必要とされる行為のことです。

特定行為は、以下の21区分38の行為に整理されています。

特定行為区分(21)特定行為(38)
呼吸器(気道確保に係るもの)関連・経口用気管チューブ又は経鼻用気管チューブの位置の調整
呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連・侵襲的陽圧換気の設定の変更
・非侵襲的陽圧換気の設定の変更
・人工呼吸管理がなされている者に対する鎮静薬の投与量の調整
・人工呼吸器からの離脱
呼吸器(長期呼吸療法に係るもの)関連・気管カニューレの交換
循環器関連・一時的ペースメーカリードの抜去
・経皮的心肺補助装置の操作及び管理
・大動脈内バルーンパンピングからの離脱を行うときの補助の頻度の調整
心のうドレーン管理関連・心のうドレーンの抜去
胸腔ドレーン管理関連・低圧胸腔内持続吸引器の吸引圧の設定及びその変更
・胸腔ドレーンの抜去
腹腔ドレーン管理関連 ・腹腔ドレーンの抜去(腹腔内に留置された穿せん刺針の抜針を含む)
ろう孔管理関連・胃ろうカテーテル若しくは腸ろうカテーテル又は胃ろうボタンの交換
・膀胱ろうカテーテルの交換
栄養に係るカテーテル管理(中心静脈カテーテル管理)関連・中心静脈カテーテルの抜去
栄養に係るカテーテル管理(末梢留置型中心静脈注射用カテーテル管理)関連・末梢留置型中心静脈注射用カテーテルの挿入
創傷管理関連・褥瘡(じょくそう)又は慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去
・創傷に対する陰圧閉鎖療法
創部ドレーン管理関連・創部ドレーンの抜去
動脈血液ガス分析関連・直接動脈 穿せん刺法による採血
・橈(とう)骨動脈ラインの確保
透析管理関連・急性血液浄化療法における血液透析器又は血液透析 ろ過器の操作及び管理
栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連・持続点滴中の高カロリー輸液の投与量の調整
・脱水症状に対する輸液による補正
感染に係る薬剤投与関連・感染徴候がある者に対する薬剤の臨時の投与
血糖コントロールに係る薬剤投与関連・インスリンの投与量の調整
術後 疼痛管理関連・硬膜外カテーテルによる鎮痛剤の投与及び投与量の調整
循環動態に係る薬剤投与関連・持続点滴中のカテコラミンの投与量の調整
・持続点滴中のナトリウム、カリウム又はクロールの投与量の調整
・持続点滴中の降圧剤の投与量の調整
・持続点滴中の糖質輸液又は電解質輸液の投与量の調整
・持続点滴中の利尿剤の投与量の調整
精神及び神経症状に係る薬剤投与関連・抗けいれん剤の臨時の投与
・抗精神病薬の臨時の投与
・抗不安薬の臨時の投与
皮膚損傷に係る薬剤投与関連・抗癌剤その他の薬剤が血管外に漏出したときのステロイド薬の局所注射及び投与量の調整

参考:特定行為区分とは|日本看護協会

診療看護師との違い

ここでは、診療看護師と特定看護師の違いを解説します。
診療看護師(NP)は、ナースプラクショナー(仮称)とも呼ばれ、教育課程(大学院修士課程)を履修し、NP資格認定試験に合格した看護師のことです。

NPは、論理的かつ科学的根拠に基づく一定レベルの診療を行え、特定行為だけでなく医師からの直接指示による医療行為を行います。

一方、特定看護師は特定研修を受けた行為のみ行えます。

特定看護師になる方法

特定看護師になるためには、厚生労働省が指定する機関で、特定行為研修の受講が必要です。

以下、具体的な流れを解説します。

特定行為研修の受講

特定行為研修には、共通科目と区分別科目の2つがあります。それぞれ詳しく解説します。

共通科目

共通科目は、全ての特定行為区分に共通して必要な能力を身につけるための研修です。科目ごとに筆記試験に合格する必要があります。
また、実習を伴う科目では「指導監督なしで行うことができるレベル」という評価判定を受けることが必要です。

具体的な内容と時間数は、以下の通りです。

共通科目の内容時間数(時間)
臨床病態生理学 30
臨床推論 45
フィジカルアセスメント45
臨床薬理学45
疾病・臨床病態概論 40
医療安全学/特定行為実践 45
合計 250

参考:厚生労働省

区分別科目

区分別科目は、特定行為区分ごとに必要とされる能力を身につけるための研修です。
区分ごとに設定された時間数を受講後、筆記試験に合格する必要があります。また、共通科目と同様、実習を伴う科目には評価判定が必要とされます。

特定行為区分と時間数の参考例は、以下の通りです。

特定行為区分(例) 時間数(時間)
呼吸器(気道確保に係るもの)関連 9
呼吸器(長期呼吸療法に係るもの)関連 8
創傷管理関連34
創部ドレーン管理関係 5

※上記時間数に加え、区分に含まれる行為ごとに5〜10症例の実習が必要
参照:厚生労働省

領域別パッケージ研修

特定行為研修は、各領域において、実施頻度が高いと想定される特定行為をまとめた「領域別パッケージ研修」を受けることも可能です。

領域別パッケージ研修では、特定行為区分のうち、一部の特定行為の研修の受講が免除されます。そのため、全て受講する場合に比べ、短い時間数で研修を修了できます。ただし、免除された特定行為は、研修を受けていないので修了したことにはなりません。

領域別パッケージ研修には、以下6つの領域があります。

● 在宅・慢性期領域
● 外科術後病棟管理領域
● 術中麻酔管理領域
● 救急領域
● 外科系基本領域
● 集中治療領域

例えば、在宅・慢性期領域パッケージ研修を受講すると、本来であれば共通科目と区分別科目の受講で330時間かかるところ、311時間に短縮できます。

受講するための資格

特定行為研修を受講するための必須資格は、看護師免許を有していることです。
そのほか必要な資格は、「3年以上の実務経験」「5年以上の実務経験」「認定看護師の資格保有者」など、指定研修機関によって異なります。受講したい研修機関の受講要項を確認してみましょう。

受講できる場所

特定行為研修は、厚生労働大臣が指定する研修機関で行います。2023年2月の時点で、全国の指定研修機関数は360機関です。

特定行為研修を行う指定研修機関は、厚生労働省のウェブサイトや、看護師の特定行為研修制度ポータルサイトに掲載されています。特定行為区分・都道府県を指定して検索できるので、確認してみましょう。

● 厚生労働省|指定研修機関について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000087753.html
● 特定行為研修ポータルサイト
https://www.nurse.or.jp/nursing/education/tokuteikenshu/portal/students/

特定看護師になるメリット

特定行為研修を受けて特定看護師になると、主に以下3つのメリットがあります。

● 活躍できる場が広がる
● キャリアアップにつながる
● 給料アップが見込める

それぞれ解説します。

活躍できる場が広がる

特定行為研修を修了した特定看護師は、手順書が必要なものの、患者の状態を見極め、適切なタイミングで必要なケアを提供できるため、活躍の場が広がるでしょう。

例えば、在宅医療の場で必要とされる特定行為は「気管カニューレの交換」「インスリンの投与量の調整」「抗不安薬の臨時の投与」「褥瘡または慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去」等です。

これらの行為を、医師不在であっても手順書をもとにスピーディに行える特定看護師は、在宅医療に関わらず、さまざまなニーズに対応できるようになるでしょう。

キャリアアップにつながる

特定看護師は、特定行為研修を修了し、高度な知識や技量を身につけています。手順書に基づき特定行為を行うものの、患者の状態を見極め、適切なタイミングで対応できるため、
病院内でのキャリアアップにつながりやすくなります。

日本では、団塊世代が75歳以上となる2025年以降、さらに高齢化が進むと見込まれ、在宅医療の推進や質の高い医療の提供が必要とされています。こうした中、看護師にも高い専門性を発揮することが求められており、特定看護師はその役割を担う存在となります。同時に、転職にも有利となるでしょう。

給料アップが見込める

特定看護師は、医師にとっても重要な存在であり、技術面でも優れた看護師のため給与アップが期待できます。ただし、勤務先によっては特定看護師に対する制度が整っておらず、すぐに給料アップにならないこともあるでしょう。

特定看護師を目指す際のデメリット

メリットのある特定看護師ですが、特定行為ができる特定看護師を目指す際、以下3つのデメリットがあります。

● 研修の受講に条件がある
● 研修修了までに時間がかかる
● 研修を修了しても活躍できないことがある

それぞれ解説します。

研修の受講に条件がある

特定行為研修の受講対象者は、看護師の有資格者であることに加え「実務経験が3~5年以上」「認定看護師の資格保有者」など、条件が決められています。そのため、目指したくても条件を満たしていなければ、受講できません。

また、指定研修機関によって条件が異なるため、希望の研修機関に通えない可能性も考えられます。令和2年度の厚生労働省の調査によると、研修機関へのアクセスが悪いと感じた人は、全体の19.4%となっていました。

特定看護師を目指す際は、受講条件をあらかじめ確認し、無理なく通えるか検討しておくことが大切です。

参照:特定行為研修受講にあたっての支援・困難等|厚生労働省

研修修了までに時間がかかる

厚生労働省によると、特定行為研修の標準的な研修期間は研修機関によって異なりますが、概ね6ヶ月〜24ヶ月となっています。研修修了までに時間がかかるため、仕事や家庭と並行しながらの受講は、負担に感じる人も少なくありません。また、受講中、他のスタッフへの業務負担を増加させてしまうことに対する精神的負担も考えられます。

令和2年度厚生労働省の調査では、特定行為研修の「受講期間中に感じた困難」として、以下の結果が出ています。

仕事との両立が難しい 51.9%
他の職員・スタッフに業務の負担がかかる 40.8%
受講の費用負担がかかる 33.5%
家庭生活との両立が難しい 32.6%
実習が不確定でスケジュールが組みにくい 23.2%

参照:特定行為研修受講にあたっての支援・困難等|厚生労働省

上記の結果に対し、同調査では、受講を可能にした要因の上位は「e-ラーニングでの受講」「勤務調整や配置換えなど上司の理解」「研修時間が勤務扱いとなる」「家族の理解」などです。

研修を受講するためには、e-ラーニングの活用だけでなく、周囲の理解が得られる環境も重要だといえます。

研修を修了しても活躍できない可能性がある

特定看護師に対するニーズは高まりつつあるものの、全ての病院や医師に認知されているわけではありません。厚生労働省の調査によると「特定行為を実施する上で困難を感じること」として、以下のような結果が上がっています。

症例が少ない 31.1%
医師の理解を得られない 25.4%
同僚・上司の理解を得られない 19.4%
医師が手順書の作成・見直しに非協力的 13.4%

参照:特定行為を実施する上で困難を感じること|厚生労働省

その他にも「特定行為を実施するためのシステム・体制作りが困難」などがあり、研修を修了してすぐに活躍の場があるわけではありません。

特定看護師として活躍するためには、すでに体制が整備されている職場への転職を視野に入れるのも、1つの方法でしょう。

まとめ

今回は、特定看護師についてお伝えしました。特定看護師は、医師の手順書に基づきスピーディーなケアが行えるため、在宅医療をはじめ、さまざまなニーズに対応できます。また、高い専門性を身につけているため、自身のキャリアアップにもつながります。

とはいえ、研修受講には時間を要するだけでなく、研修修了後、活躍の場が制限される場合もあります。特定看護師を目指すためには、研修受講に対する理解やスタッフの調整など、職場環境も重要です。

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