医療現場で言及されることの多い「チーム医療」。チームでの医療介入においては、専門職間の分業にとどまらず、互いに連携することが必要不可欠です。またその意義や各職種の役割を把握しておくことで、各職種より効果的な働き方ができます。
この記事では、チーム医療が目指すゴールや生まれた背景、各メンバーの役割について解説します。
チーム医療とは
チーム医療とは「患者さんに望ましい医療を提供するために、医療に関わる専門職が対等な立場で連携・協働すること」を指します。現代医療は高度化かつ複雑化が進んでおり、患者さんが求める医療ニーズも多様になっています。
チーム医療においては、各職種がそれぞれの専門性を発揮し、患者さんの複合的な医療ニーズに応えることを目指します。
チーム医療の重要性
もともと国内の医療は、戦前まで医師を頂点にしたヒエラルキー構造で提供されていました。当時は医師、歯科医師、薬剤師、看護師の4つの医療職で構成されており、患者さんそのものではなく、病気やケガの治癒のみが着目されていた時代です。
戦後になると、臨床検査技師、理学療法士や作業療法士、管理栄養士といった医療に携わる多くの専門職が誕生しました。さまざまな医療従事者の誕生により、医療の専門化かつ複雑化が進むなかで、患者さんの人権を尊重した「全人的医療」の必要性が高まり、チーム医療が重視されるようになったのです。
とくに現代は、少子高齢化による医療環境の変化途中にあり、限られた職種や組織が患者さんのニーズに応えるのには限界があります。そのため近年、医療の枠組みを超えて、保健福祉分野の職種とも密に連携していくことが求められています。また、患者中心の医療を実現するために、患者さんや家族もチーム医療の一員とする考え方も生まれています。
チーム医療のメリット
医療職がチームで介入をすることは、患者さんと医療組織の両方にメリットがあります。
患者さんに多角的なアプローチができる
チームで医療介入すると、患者さんが抱える多様なニーズに対応しやすくなります。またさまざまな専門性を持った医療職が協力して治療プロセスに関わることで、患者さんが望む医療の実現にもつながります。
医療スタッフの負担を軽くできる
チーム医療では、それぞれの職種が自分の役割を果たすことで、特定の職種に負担が集中をするのを避けることができます。とくに医療は医師の指示によって提供されるため、どうしても医師に負担が集中してしまう傾向があります。
現在、国によるチーム医療推進の一環として各職種の業務範囲も拡大しています。医師以外のコメディカルの業務範囲が広がると、チームにおける負担の均等化につながります。
医療ミスを防ぎ、安全性を高めることができる
チーム医療には業務分担の側面もあります。医師など特定の職種の負担が軽減することで、医療ミスの低減につながり、安全性が高まります。
医療提供のリーダーは医師ですが、医師が患者さんに関わるすべての事柄に詳しいわけではありません。薬学のことなら薬剤師、療養支援のことなら看護師、栄養に関しては管理栄養士という風に、医師以外の職種のほうが熟知していることも多くあります。多職種が連携することは、より質の高い医療提供にもつながるのです。
チーム医療で各職種が担うべき役割
チーム医療ではさまざまな医療専門職が患者さんに働きかけを行います。ここでは各職種に期待される役割についてみていきましょう。
医師
チーム医療における医師の役割は、リーダーシップを発揮することです。チームによる医療介入の重要性が注目されているものの、医療提供はあくまでも医師によるオーダー(指示)をもとに、アップダウン形式で行われるからです。
医師は診療上の指示を出す立場ですが、コメディカルと対等な立場で協働していくことが求められています。とくに他の医療職は医師に対して遠慮がちになることも多くあります。医師自ら進んでコミュニケーションを取り、時には他職種に提言を求めることも必要です。
看護師
チーム医療における看護師の役割は、患者さんの全体像を把握し、医療チームのメンバーの調整を図ることです。
チーム医療では多職種が患者さんの治療に関わるため、ときに患者さんの全体像まで細分化されてしまう傾向があります。また各医療職が専門性の発揮を競い合えば、患者さんに本当に必要な医療提供は果たせないでしょう。
看護師は、他の医療職よりも患者さんと接する機会が多くなります。日々の業務のなかで患者さんの全体像を捉え、各専門職との調整を図ることが求められています。
薬剤師
チーム医療における薬剤師の役割は、薬の専門家として医療チームに提言を行うことです。現在多くの医療機関では、病棟薬剤師を配置しています。薬剤師には単にハイリスク薬剤の管理や患者さんへの薬に関する説明だけにとどまるのではなく、薬学的な観点から患者さんのケアを行うことが求められます。
患者さんと関わるなかで、薬の相互作用や副作用を確認し、時には医師に処方薬に関するアドバイスを行うことも重要です。
管理栄養士
チーム医療における管理栄養士の役割は、各専門職の知識やスキルを活かしながら栄養療法を実践することです。NST(栄養サポートチーム)の普及により、管理栄養士の活躍の場は、厨房だけでなく病棟にも広がりました。
栄養士は医師の指示に基づいた食事提供に関わりますが、治療を最大限に生かすためにも患者さんに満足して食べてもらう必要があります。栄養士はベッドサイドで患者さんの栄養アセスメントを行い、他職種と連携しながら、個々の生活に合わせた栄養指導を行います。
理学療法士
チーム医療における理学療法士の役割は、リハビリにより病気やケガで失われた身体機能の回復や維持・向上に努めることです。理学療法士はリハビリ室で業務を行うことが多いですが、病棟を回りリハビリをすることもあります。
寝たきりの患者さんも日常的にリハビリを受けられるように、ときには看護師と情報共有をする、他職種でも患者に提供できるリハビリのアドバイスをすることが期待されています。
作業療法士
チーム医療における作業療法士の役割は、患者さんの日常生活動作の向上や社会復帰を目的にした機能回復訓練を提供することです。作業療法士は理学療法士と同様に、人員が少なく、他職種との関わりが限られることもあるでしょう。必要時にはチームカンファレンスを開くなどして、多職種連携を心がける意識を持つことが大切です。
言語聴覚士
チーム医療において言語聴覚士は、言語聴覚障害や摂食障害のある患者さんに対して、指導や訓練を行います。指導・訓練にあたっては医師や歯科医師と密に連携しながら、嚥下訓練や人工内耳の調整をします。
また補聴器関連では介護分野の専門職と連携したり、子どもに対しては保育や教育の専門職と協働したりするなど、医療機関外でも多職種連携を行います。
臨床工学技士
チーム医療における臨床工学技士の役割は、医療機器の操作と管理、点検です。医療技術の発達にともない、医療現場では人工透析、人工呼吸器、人工心肺装置、除細動器といった最新機器を扱うようになりました。臨床工学技士は看護師など他職種と情報共有したり、医師と相談して医療機器の設定やコントロールを行ったりします。
臨床工学技士は患者さんと直接関わる機会が少なく、患者さんの疾患によっては臨床工学技士のスキルが不要なこともあるでしょう。しかし、医療機器を安全に使用するために、臨床工学技士はチーム医療に欠かせない存在なのです。
臨床検査技師
チーム医療における臨床検査技師の役割は、検査データから評価を行い、検査の専門家として助言を行うことです。例えば、感染症チームでは、薬剤の感受性結果や病原体、疫学の情報など検査の立場から情報共有を行うことが求められます。
また臨床検査技師の業務範囲は拡大しており、採血や検体の採取も行えるようになりました。臨床検査技師は検体の扱いを熟知しています。医療現場では、検体が適切に扱われていないこともあり、臨床検査技師が関わることで、医療機関における検査の質の向上にもつながるのです。
診療放射線技師
チーム医療における診療放射線技師の役割は、迅速で正確性の高い放射線検査を行うことです。診療放射線技師の業務は医師の指示に基づくものであるため、多職種連携を意識している人は少ないかもしれません。
しかし、事前に患者さんの診療情報を得たり、看護師など他職種と意見交換を行ったりすることで、より安全で患者さんの苦痛が少ない検査を提供できるようになります。
医療事務
医療機関の事務業務に関わる職種には、窓口業務を行う医療事務と病棟にて行う病棟クラークの2つがあります。チーム医療における医療事務の役割は、治療に関わる事務処理を行うことです。また病棟クラークは、事務業務に加え、入退院の受付や患者対応など幅広い病棟業務を行います。
医療事務は医療資格職ではないものの、チーム医療を下から支える存在です。たとえば病棟クラークが看護師など他職種と情報共有を密に行えば、軽傷患者の院内の売店への付き添いなどを担う際にも、患者さんの気持ちもくみ取って対応できるようになるでしょう。
看護助手(看護補助者)
チーム医療における看護助手(看護補助者)の役割は、看護師の指示のもと病棟業務をサポートすることです。通常、看護助手が任されるのは、病室や病床の環境整備や患者さんへの配膳・下膳、病棟内での医療器具の消毒など、専門的な判断を必要としない業務です。一方で、医療機関によっては状態の安定した患者さんの搬送を行うこともあるでしょう。
看護助手の業務は、患者さんの療養生活を支えるものです。チーム医療の一員として、看護師と情報共有を行うことが期待されています。
チーム医療をおこなう上で大切なポイント
チーム医療では、多職種が互いに連携してこそ質の高い医療を提供できるというものです。チーム医療を行うときは、以下のことに配慮しましょう。
情報共有や連携を密におこなう
多職種が連携して患者さんに医療介入するには、チーム内での情報共有が欠かせません。現在は多くの医療機関で電子カルテが普及しており、患者さんの基本情報を自ら得ることができます。しかし、医療記録のみでは患者さんが持つ潜在的な問題がみえにくいものです。
医療チーム内での話し合いやチームメンバー個々との関わりを通して、患者さんに関する情報共有をしてはじめて連携を図れることもあります。とくに疾患の治療の際には、患者さんのライフスタイルや価値観といった幅広い情報が診療方針を決定する決め手にもなるでしょう。
チーム内で必要な情報共有を行えば、各医療職がお互いを理解するきっかけにもなり、連携した医療が提供しやすくなります。
各職種が専門性を発揮できる環境をつくる
チーム医療が上手く機能するためには、各医療職が専門性を活かしながら協働する必要があります。多くの場合、患者さんの医療ニーズは複雑でいくつかの要素が絡みあっています。多職種によって構成された医療チームをつくれば、患者さんに多角的なアプローチがしやすくなるでしょう。
しかし、メンバーが各々の専門性の発揮を重視しすぎると、患者さんにとって本当に必要な医療を見失ってしまいかねません。チームで医療介入するときは、各医療職が協働してこそ専門性を活かせるものです。チーム医療がしっかり機能することで、診療の質が向上し、患者さんの満足度を上げることができます。
チーム医療の現場で働くためには
多職種連携やチームでの医療介入に興味を持つ看護師もいるでしょう。働きかけのスケールこそ異なるものの、医療機関であればどこでもチーム医療が行われています。
例えば、クリニックのような規模の小さい医療機関でも、医師や看護師、理学療法士などが在籍しており、複数の職種によって連携が行われています。一般病院でも、看護師が医師に報告を行ったり、看護師の病棟カンファレンスに管理栄養士が参加したりと、医療職間の情報共有や連携は広く行われています。
一方で、チーム医療でさまざまな職種と関わりたいのであれば、大学病院や総合病院など規模の大きい医療機関を選ぶのがおすすめです。病床数の多い病院であれば、在籍している医療職の種類や数も豊富です。とくに大きい病院では、NSTチームや緩和ケアチーム、感染症対策チームなど、医療職が連携しながら、部署の垣根を超えたチーム活動を展開しています。
院内全体で活動する医療チームに入るには、看護師もその分野に関連する実務経験や資格取得を目指さなければなりません。多職種連携による医療介入に興味がある看護師は、計画的にスキルアップを行いましょう。
まとめ
チーム医療では、各医療専門職が連携しながら専門性を発揮し、患者さんに必要な医療を提供します。医師を頂点にしたヒエラルキー構造ではなく、それぞれの医療職が対等な立場で患者さんとの関わりを持ちます。多職種が協働して医療介入することで、患者さんの複雑な医療ニーズに対応しやすくなり、患者さんを中心とした医療を提供しやすくなります。
チーム医療が上手く機能するには、各職種がお互いの役割を理解し、必要な情報共有や提言を行わなければなりません。職種間による単なる分業ではなく、患者さんに対する共通の治療目標を持ち連携していくことが大切です。
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参考:
チーム医療
チーム医療における看護師の役割‐総合医学会報告
看護師からみたNST管理栄養士の役割
リハビリテーションチーム医療における作業療法士の立場からの現状と課題
チーム医療における臨床検査技師の役割
チーム医療における放射線技師の役割
看護補助者とチーム医療~看護補助者の業務範囲と役割~